第59話:もう、やめた

それなのに、自分は君を傷つけた






「適当に、遊ばれて終わりだよ」









あやかちゃんを否定していった・・・



「あやかちゃんは本命じゃないから、そんなこと言えるんだって」



「あやかちゃん、好きになると重いしね・・・」



「”あやかちゃん”に本気なのかなぁ・・・」














その”彼”のキャラも勝手に決めた・・・




「明日は絶対、女と一緒に温泉旅行に行ってるよ」



「妙に、土曜日にこだわってるしね」



「”飲んで、自分の家に連れ込む”ってパターンが出来てるよね?この人」










そして、自分も・・・




「僕も、若い頃は適当に転がしてたこともあったもん」



「本命じゃない子ほど、クサイコト言えるし」



「若い頃って、女の子と”やる”のを”ポイント”を取るみたいに・・・」










みんな”否定”した










そして、あやかちゃんは、泣いた・・・




いつも深夜帰りに、一緒に行っている

ファミレスで泣いた・・・











「ごめん・・・。言い過ぎた・・・」

言い過ぎたことに気が付く自分






あやかちゃんは、両手で顔を塞いでいる・・・






「・・・ごめん」

顔を少し覗き込む自分







しばらくして、両手を顔から離す・・・




自分を見て、ニコっとあやかちゃんが笑う・・・





「そうだね、私、転がされてるんだね

・・・うん、やめた」




「・・・うん・・・」






「妙に、土曜にこだわる人だしね・・・。

   他に居るんだよ。付き合ってる人。

 何で、そんな人ばっかり好きになっちゃうのかな。私も魅力が無いんだろうね・・・」







そこで自分はもっと、あやかちゃんのことを本当に考えて大切に言葉を伝えられれば良かったけど・・・

言えなかった・・・

言いたくなかった・・・

あやかちゃんを他の誰かに

取られたくなかった・・・




だから・・・

君が傷つく事を沢山・・・





「もう、帰ろ」

あやかちゃんが、落ちた表情で席を立つ



自分も、伝票を取りながら席を立つ





会計を済ませて、外に出る




少し、夜風が冷たい







車内では、無言の二人






何もいえない自分





何で何も言えないのか?


何で、さっき泣いた後に弱く言った、あやかちゃんの言葉を

救うことが出来なかったのか・・・

考えていた・・・



やっぱり、悔しいから?



言っても、あやかちゃんが、その”彼”のことをあきらめて無いと思うから?




そんな事を考えていたら、あやかちゃんの自宅マンションの前まで来ていた







このまま、帰ったら・・・






「・・・あやかちゃん、少しだけ話していい?」





「・・・うん」





この時、今日のことを”挽回”するつもりで

引き止めたはずなのに・・・





あやかちゃんのマンション横の道路で




とめた車の中で・・・




また、否定する言葉を自分は言った・・・

(何でそんな事…)




 


そして、その言葉にまた泣いてしまった、あやかちゃんに・・・








「嘘だよ。ごめん。そんなんじゃないよね。彼」




「温泉は、男友達と行ってるよ」




「あやかちゃんが、彼にとって本命だよ」



正直、嫌味にしか聞こえない言葉を更に浴びせた





「それじゃあ、コウちゃんがさっき言ってた、事は何?」




「もう、一回言った言葉は取り消せないよっ!」




涙声で怒りながら言う、あやかちゃん・・・









そして・・・








車を飛び出していく、あやかちゃん・・・








追いかけたけど、あやかちゃんの心には追いつけない自分






閉ざされる、冷たいエントランスのドア






遠くなる、あやかちゃんの背中





立ち尽くす自分














そして、その場を離れ

しばらくして車を走らせる自分







いつもの、あやかちゃんの家からの

深夜の帰り道





いつもの、角のパチンコ屋さん



まんが喫茶



ファミレス




深夜タクシーの清掃場



高速の下の道



そんな、見慣れた景色が通り過ぎていく車の中・・・



















「・・・うん、やめたっ」













「そうそう、やめよう」





「こんな恋愛やめよう」





「結局、終着なんて無いじゃん」





「絶対、最後は別れないといけないじゃん」





「不倫じゃん」





「バレたらやばいじゃんっ」





「あーっ、よしっ、やめた」





「あ、何か、やめたと思ったら楽になった気がする??」




「だよね。疲れたちゅーの!まったく・・・」




「あんな、惚れやすい子、だめじゃん」




「ま、だから一緒に居てくれたのか・・・?」




「バカじゃん。俺。迎えに行ったら、他の男と寝てたんじゃんっ。あやかちゃん」




「キスはしたけど、エッチはしてないって・・・。朝まで一緒に居てそんなわけ有るかい!」




「きつッ。痛いな。俺」




「あ~、もう、夜中に迎えに行かなくても済むんだ。楽だなぁ・・・」



「・・・苦しいだけじゃん

めちゃくちゃ苦しいじゃん


・・・それが、今から無くなるなんて楽だなぁ」






「楽だなぁ・・・」







「・・・」











「・・・もう、やめた」


















「第60話:目覚めた朝」

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