第26話:忙しい毎日


君に会えない毎日


ぽっかりと穴の開いた毎日


ただ忙しい毎日









「コウさん、間に合いますか?」

助手席に乗る、洋君が言う

今日は2人でお得意様の所に営業に向かっていた


「ん?あ~~、間に合うと思うよ」

ちょっとボケ気味の自分

4月も終わり頃

この頃は連日忙しく、寝不足が続いていた・・・


「すみません、ギリギリまでかかっちゃって」

申し訳なさそうに言う後輩の洋君


「大丈夫、大丈夫。逆に洋君じゃなかったら間に合わんかったって」


そんな会話をしている間に、お客様の所に到着


結局、お客様に仕事が気に入られ、無事仕事が終わった


「おう、良かったじゃん。評判も良かったね」


「はい、良かったっす」



トルルルルルルルルッル

洋君の携帯が鳴る



「はい、お疲れ様です・・・・・」


「えぇ」


「はい」


「わかりました」


「じゃあ、近くに居るので・・・」


洋君が電話を切る



「すみません、コウさん。一軒付き合ってもらってもいいっすか?」


「あぁ、いいよ。どこ?」


ってことで、一区間離れた、洋君担当のお客様の所に行き、

新規受注をし、自分も担当の方と名刺交換だけした



「すみません、時間取らせちゃって、じゃあ、帰りましょうか?」


「うんうん、かえろか・・・」

良く考えたら、ここはあやかちゃんが働いている会社の近く・・・

思い出して少しだけ、胸が痛くなる


駐車場にとめた車を出し、大通りに出る

車を走らせる


両方に街路樹が並ぶ大通り

春なので緑も木々が鮮やかになっていた

その道をしばらく進むと大きな交差点があり信号が赤に変わる


助手席で、洋君がタバコに火を付ける

なんとなく洋君の方を見る自分


なんとなく洋君越しにうつる窓の外

その窓越に、横断歩道の前で数人のビジネススーツを着た人々が信号を待っているのが見える

その、ビジネススーツを着た人々の後ろ側に、見慣れた後姿があった・・・









あやかちゃん?










信号が青になる





あやかちゃんに見えた?



そんなワケけない・・?



っと思いつつも、車を会社の方向とは逆に無理やり回り込ませる

完全に無意識の危ない運転


「ちょっ、どうしたんすか?!」

洋君がタバコをくわえながら、驚く


「う?あぁ、ごめんちょっと」


「え?」


その、”あやかちゃんの後姿”を通り越し、路肩に車を停車する


「ごめん、洋君。ちょっとっ」


「ちょっと?」


とドアを開けて”あやかちゃんの後姿”を追いかける。



「あれ?居ない・・・」

辺りをキョロキョロする自分



「あ、居た!」

とっさに追いかける。

はたから見たらかなり不自然な奴になっている自分



近くまで近づく・・・

駆け足を、歩きに直す・・・


ゆっくりと後ろからその”あやかちゃんの後姿”を追い越す・・・


高ぶる感情


ドキドキしながら、追い越し際に”あやかちゃんの後姿”の正面を見る・・・












違ってた・・・


髪型と服装は似ていたが、全くの別人

ただの幻であった





んなわけねーじゃん!っと自分ツッコミをして

トボトボと車に戻る自分



洋君が車の外でタバコを吹かしながら待っていた。

「大丈夫っすか?コウさん?」


「ううん、ちょっと・・・」

ハザードランプを消し、会社に戻る二人・・・











記憶に残る君


携帯電話の着信に期待してしまう自分


携帯電話のメールに期待してしまう自分


でも、それはいつも”君”じゃない・・・











「第27話:下平デザイン」

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