下半身じゃなくてしっかり頭で考えてる世界線

IF#1 エロマンガみたいじゃない普通の冒険者の話



[世界線]もしガンマくんの転生前の記憶が戻ってなかった場合の話





「それじゃ、俺冒険者になる旅に出るよ!」


「寂しくなるね……いつでも帰ってきてくれていいんだからね、ガンマくん……いってらっしゃい!」


「そうか……私は村を守らねばならないから一緒には行けないが、ここでおまえの旅の無事祈っているよ。たまには帰ってくるんだぞ」



俺は幼なじみのオサナと姉貴分の狩人アーネに見送られ、王都で冒険者になるべく村を出た。



◇◇◇



「イヤ!誰か!誰か助けてッ!」


「護衛の騎士共は全員殺した!こんな辺境でいくら叫んでも助けなんかこねぇよ!観念するんだな!」



旅立ってそうそうに賊に襲われる一団に遭遇した。


盗賊とおもしき男が数名。それと血溜まりを作り、物言わぬ騎士の死体そこいらに転がっている。


俺は草陰に隠れて様子を伺う。



(賊の数は13人……くっ、流石にこの数を1人で相手にするのは厳しいな……でも見捨てる訳にはいかない!出来る出来ないじゃない!やるしかないんだ!)



◇◇◇



「はぁ……はぁ……なんとか……なったか……」


「す、凄い……この数を相手に1人で全員倒してしまうなんて……」


「うっ……」



息も絶え絶え俺はその場に倒れ込んだ。



(賊を倒す事は出来たけど……ぐっ……代償が左腕1本……まぁ女の子の命に比べたら安いもんか……ゴホッゴホッ……血を流し過ぎた……もう意識が……)



◇◇◇



「……ん?あれ?俺は……」


「あ、目が覚めましたか!」



しばらくして目を覚ますと目の前には先程の賊に襲われていた少女が居た。



「傷が……それに腕が、生えてる?」


「はい!僭越ながら私が治させて頂きました!」



賊との戦闘で負ったはずの傷が綺麗さっぱり無くなり切り飛ばされた左腕も元通りになっていた。



「私はロエと申します。女神様に仕える、しがない聖女です。ガンマ様には危ないところを助けていただき感謝してもしきれません!大変ありがとうございました!」



聞くところによれば聖女であるロエさんの光魔法は最高位のものらしく、死んでさえいなければどんな傷も病気も部位の欠損ですら治してしまえるらしい。



「俺はガンマ。田舎出身の冒険者(予定)だ」


「ガンマ様と言うのですね!よろしくお願いします!ガンマ様には何か助けていただいたお礼をしたいのですが……」


「お礼?いやいや、傷を治して腕を生やしてくれただけで充分だよ」


「いえ!そんなわけにはいきません!そもそも傷を負ったのも私が原因……こうして今無事で居られるのもガンマ様のおかげです!私に出来ることでしたら”なんでも”お申し付けください!」


「別に何か見返りを求めて助けたわけじゃないからさ……でもどうしてもって言うなら……」


「はい!なんでしょうか!?」


「もし、また俺が怪我した時に治して欲しいかな」


「そんな事でしたらいくらでも!いつでもお申し付けください!」



◇◇◇



「ここまで連れてきて下さり本当にありがとうございました!ガンマ様には何から何まで助けていただき、もう足を向けて寝られませんね!」



道中、モンスターに襲われたりなんだり色々ありはしたが俺は聖女様を無事に王都の教会に送り届けた。


教会の関係者に事情を説明し聖女様を引き渡す。



「そうか……苦労をかけたな。この度の功績、教会関係者を代表して礼を言おう。ロエ様を守ってくれて、ありがとう」


「そんな畏まらなくても大丈夫。もともと王都を目指して旅をしてきたわけだし。ロエさんをここまで送り届けたのはついでみたいなもんだから」


「ふっ……自分の功績を誇りもしないか……なかなか見どころのある男だ。どうだ貴君さえよければ私の元で神殿騎士として働いてみないか?」


「それはいい考えですねラナ!私からも是非お願いします!」


「いや、折角だけど断らせてもらうよ。なんか神殿騎士って堅苦しそうだしな。俺は自由気ままに冒険者やりたいから」


「そうですか……残念ですね」


「気が変わったら何時でも来い。貴君の様な奴ならいつでも歓迎する」


「わかった。それじゃ俺はこの辺で」


「ガンマ様!お怪我を成された時はいつでも来てくださいね!あ、それ以外の時もいつ来て頂いて構いませんから!」


「ああ、気軽に立ち寄るよ。またな!」



◇◇◇



(さて、冒険者ギルドに登録してしばらく経つが、俺もそろそろ一緒に冒険する仲間が欲しいところだ。ん?あの子あそこで1人突っ立ってるけど、ソロの冒険者か?よし、声かけてみるか)



「……なんだいキミはボクに何か用かい?」


「1人のようだから、もしよかったら一緒にパーティーでも組まないかと思ってな」


「……ボクが誰だか知らないのか?」


「いや、まったく知らない」


「なるほど。キミのような無知な存在もギルドにまだ居たのだね。知らいなら教えてあげよう。ボクはかつて雷帝と謳われた元SSランク冒険者であるギルドマスターの一人娘。リゼル=マギだ。まだ成り立ての冒険者ではあるが、そこいらの有象無象よりは実力はある方だと自負している。キミのような一介の冒険者――ん?キミのことは初めて見る。キミも駆け出しかい?」


「ここに来たのは最近だから駆け出しといえば駆け出しだな」


「やっぱりね。そうだと思ったよ。キミのような、うだつの上がらなそうな男は実力も大したこと無さそうだ。実際、大した実力も無い底辺なのだろ?キミとボクとではまったく釣り合いそうにない。よかったらパーティーを組まないか?バカも休み休み言ってくれよ。足を引っ張られる事が目に見えてるのにどうしてパーティーを組まなければならないんだい?無駄だろう。そんなことは。キミみたいな奴とご組むぐらいなら一人で居た方がマシだね」



(もしかしなくても俺ヤベェ奴に声かけたか?)



「でも、もしもキミがどうしてもボクと組みたいなら。そうだね。額を地面に擦り付けて誠心誠意ボクにお願いすることだね。そうしたら考えてあげてもいいかな。キミのような底辺男と行動するのは不愉快極まりないが、荷物持ちぐらいでなら使ってあげてもいいかもしれないね。流石にキミのような奴でも荷物を持つこと、歩くことの2つの行動ぐらいは出来るだろ?あ、でも大した量の荷物も運べなさそうだね。これは荷物持ちも厳しそうだ。そうなるとキミに出来ることが無さそうなんだが、どうするんだい?キミは呼吸すること以外に出来る事はあるのかい?なんにしてもキミはこうしてボクの貴重な時間を奪っていることに対して謝罪をした方がいいと思うんだ。キミのどうでもいい人生と比べてボクの人生は貴重なものだからね。謝罪の仕方はわかるかい?まずは膝を折って、両の手のひらを地面につける。そうして顔面を地面に擦り付けながら「ごめんなさい」って言うんだ。ほら、ごめんなさい」



(あー……うん……完全にヤベェ奴だったわ、こいつ)



「何をボサっとしてるんだい?ほら、早く謝罪するんだ。ふん……どうせキミもそこいらの有象無象と変わらないんだろ。もういい。早くボクの前から消えてくれないかい?」



(でも、なんだろうな。こいつの事は無性に放っておけない気がする……よし!)



「どうか俺をリゼルさんの荷物持ちとして使ってやってください!」



俺は勢いよく土下座して頼み込んだ。



「…………へ?」


「この通りだ!お願いしますッ!」


「ふ、ふーん……ま、まぁキミがそこまで言うのならボクも鬼じゃない。か、考えてあげなくもないかなぁ……そうだね。最初はお試しとして使ってあげてもいいかな!それでキミがもし使える奴だったら正式に荷物持ちとして認めてあげようかなぁ」


「よしきた!」


「はっ……!?ちょ、ちょっと!?き、急に担ぎあげっ……!き、キミッ!流石に淑女にこんな扱いは失礼極まりな――!?」


「すいません、受付さん!この子とパーティー組むんで登録お願いします!」



◇◇◇



「やあやあ、ガンマくん!ボクとキミとの相性は抜群だね!キミが前衛で戦ってくれると後衛のボクは安心して魔法の詠唱に専念出来ると言うものさ!もうボクたち2人に敵うものなんて居ないとは思わないかい?ボクはキミと2人ならなんだって出来る気がするよ!……そ、そんなわけでボクはこれでもキミに感謝してないことも無いんだ……だから機嫌直してくれないかな?」


「リゼル……おまえが敵とまとめて俺を吹き飛ばすのはこれで何回目だ?」


「ごめんなさい……わかりません……」


「毎回毎回、ごめんなさいごめんなさいって本当に反省してるのかおまえは」


「うぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……謝るから、もう許して……」


「…………」


「た、頼むよガンマくん……ボクもうキミ無しじゃダメなんだ……キミに見捨てられたらボクはひとりぼっちに戻ってしまう……もうひとりは寂しいよぉ……」


「はぁ……ホントもうこれっきりにしてくれよ?頼むぜ――相棒」


「ガンマくん……ッ!うん!ボク頑張るから!これからもよろしくね!」



◇◇◇



「ふふふ。またお怪我なさったんですか?」


「いやそれが最近パーティー組んだんだが、その組んだ相手がよく敵とまとめて俺を吹っ飛ばすんだ……いつも迷惑かける聖女様」


「それは大変ですね。それと聖女様なんてやめてください。私とガンマ様の仲です。ロエでいいですよロエで」


「そうか、それならロエさん」


「はい!なんでしょう!」


「ロエさんはなんで俺が怪我してくると若干嬉しそうなんだ?」


「ふふふ。それはなんででしょうね?」


「うーん。さっぱりわからん……実は怪我をしてる人を見ると興奮するとか?」


「もう!そんなはずないじゃないですか!いくらなんでもそれは失礼ですよ!」


「いやいやごめんごめん。軽い冗談だから」


「ふん!ガンマ様なんて、もう知りません!」


「悪かったって!謝るから機嫌直して!」


「……私、今度お休みを頂けることになったんです」


「休み?多忙の聖女様には珍しいね」


「はい。ですからそのお休みの日なんですが……」


「わかった。その休みの日になんでも好きな所で好きな物を奢るって事で、ね?」


「そ、そうですね!それで許してあげましょう!」


「はあ……余計な一言が高くつきそうだ」


「えへへ。ガンマ様とデート……楽しみです……!」


「ん?なんか言った?」


「いえ!なにも言ってませんよ!」



◇◇◇



「はぁ……はぁ……もう一本……ッ!」


「いや。この辺りで少し休憩しよう」


「いや、俺はまだ……!」


「ふんッ!」


「おごぉおッ!?」



団長殿にぶん殴られて地面に転がされた。



「まったく……そんな根を詰めすぎては身になるものもならんぞ。少し休め」


「団長さん……休ませ方……ぶん殴って強制的に横にさせるのはどうかと思うんだが……」


「そうでもしないとおまえは休まんだろ。変なところで頑固だぞ。やる気があるのはいいが、それでは体の方がついてこない。休むのも訓練の内だ」



神殿騎士団の訓練所。俺はそこで神殿騎士団長に直々に稽古を付けてもらっていた。


地面に大の字になって倒れている俺の横に団長殿が腰を下ろした。



「お前の様な骨のある奴は純粋に好感が持てるが、無茶がすぎるぞ。何故、そこまで必死になる?」


「折角、あの『教会の守護神』が時間を作ってくれるって言うんだから1秒足りとも無駄にしたくない」


「ふむ。確かに私が手浸からず個人的に手解きするのは珍しい。貴重と言えば貴重だな。とはいえ大概の輩は直ぐに根をあげる。こうしてもっともっとと訓練をせがむのはおまえが初めてだな」


「団長さんの初めてとはそれは光栄な事で」


「そ、そうか?私の初めては光栄か……なるほど……」


「……?」


「い、いや。なんでもない……で?おまえは何故そこまで強くなりたい?」


「世の中にはさ。色々、理不尽な事とか常識とか道理とかさ。どうしようも無いことって沢山あるだろ?それに納得が行かなくて自分の意志を貫きたい時ってどうしても『力』が必要になる 」


「ふむ」


「ロエさんが賊に襲われた時、なんとか助ける事が出来た。だけどあの時かなりギリギリだったしロエさんが居なきゃ俺はおそらく死んでた。こうしてここで俺もロエさんも無事でいられるのは正直、運が良かっただけだと思ってる」


「そうか?それはおまえがしっかりと鍛えていたからこそ、無事でいられたのではないか?」


「まさにそれだよ。鍛えていて『力』があったからこそ、なんとかギリギリどうにかなって、運良く助かった。これで俺になんの『力』もなければどうしようも無かったんだ」


「確かに」


「だからこそ。理不尽に屈しないように。自分の意志を貫く為に『力』が欲しい。運とか不確定な要素じゃなくて自分の力でしっかりなんとかなるようにな。自分の大事なものを守りたいんだ」


「理不尽に屈しないようにか。なるほど。立派な奴だな、おまえは……益々、気に入った!やはり私の元に来ないか?私の元に来れば、もっと鍛えてやることも出来るし。それに大概の理不尽は私が変わりに跳ね除けてやる事も出来る?」


「はっ!変わりにやってくれる?団長さんが俺を守ってくれると?冗談キツイぜ団長さん!女の子に守ってやるからと言われて男の子がカッコつくかよ!」


「ほ、ほう……私を女の子と呼ぶか……おまえと歳が一回りも違う私を?」


「何歳になっても女の子は女の子だよ。女の子を守ってやるのが男の子の役目だ。団長さんこそ俺が守ってやろうか?」


「………………ポッ」


「……ん?どうかしたか?」


「あっ!?いいいいいいや!?なんでもないぞ!なんでもないとも!ま、まぁ、アレだな!私を守りたいと言うなら私より強くなってもらわないとな!」


「任せろ!団長さんより強くなって団長さんも俺が守ってやるよ!」


「……そこ団長じゃなくてラナでもう1回」


「……?いやまぁいいけど……ラナは俺が守ってやるよ……?」


「はいっ!」


「…………は?」


「ゴホンゴホン……ッ!これから私の事は団長では無く名前で呼ぶように!」


「えーっと……それじゃラナおばさん」



ブチィッ!



「いつまで寝てるッ!さっさと起きろ馬鹿者がッ!訓練を再開するぞッ!貴様の様な奴は朝までミッチリシゴいてやるからな覚悟しろッッッ!!!」



◇◇◇



特にこれといった騒動もなく。俺の冒険者としての日常は続いていくのであった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る