#16 あなたはナメクジ。ナメクジさんです。わかりましたね?




「勇者パーティに勧誘?」


「そうなんだ!聞いてくれよガンマ君!」



冒険者ギルド備え付けの酒場にて、リゼル改めクソザコちゃんが相談があると強制連行された。拒否権はなかった。そもそも可愛い可愛いクソザコちゃんの相談に否はないが。まぁ拒否したら拒否したで面白そうなのでそれも有りっちゃ有り。



「だが断るッ!」



1回言ってみたいセリフシリーズ。



「……キミはボクが勇者に盗られてもいいのかい?」


「よし!詳しい話を聞こうじゃないかリゼル君!」


「……なんだかんだでキミはボクのこと大好きだよね?」


「大好きだが???(半ギレ)」


「もうッ!よしてくれよ!ボクが世界一可愛い超絶美少女だからって!まったくキミって奴はそんなにボクの事が好きかい?しょうがない奴だなキミはぁ」



くねくねとしながら擦り寄ってくるクソザコちゃん。ほんまチョロい。



「まぁ、そこまで言われたらボクとしてもやぶさかではないかな!ちょっと場所を宿屋に移して――」



バンッ!



大きな音にビクリと身体を震わせ硬直するクソザコちゃん。見ると聖女ちゃんがテーブルを両手で引っぱたいていた。ニッコリスマイル。しかし当然ながら目はまったく笑ってない。



「ナメクジさん」


「ナメクジさん……?ボクの事……?」


「はい。そうです。貴女以外にクソザコナメクジさんは居ませんよね?そんなことも理解できないんですか貴女は?」


「いや……あの……ボクは……」


「ナメクジさんですよね?」



聖女ちゃんの有無を言わさぬ圧力。背後には般若の面を被った悪鬼羅刹の化け物が幻視する。めっちゃ怖い。ちんちん縮み上がる。



「はひっ!ボクがクソザコナメクジです!聖女様の仰ることは何一つ間違っておりません!大変申し訳ありませんでした!」


「まったく……心優しいガンマ様が折角ナメクジさんの為に時間を作って相談を聞いてくださるというのですから余計なことはせず本題を簡潔にまとめて話してくださいね?」


「はい……ごめんなさい……」


「ごめんなさい……?申し訳ありませんではないですか?」


「ハイッ!大変申し訳ありませんでした!」



深々と頭を下げるナメクジちゃん。いいなぁ。俺も聖女ちゃんに言葉責めされたい。こんなんご褒美やぞ。地面に這いつくばって聖女ちゃんの足を舐めながら許しを請いたい人生だった。



「それで、ご相談とはなんなのでしょうか?」


「実は……」



かくかくしかじか。



クソザコちゃんの話をまとめると、勇者パーティに欠員が出たため、その補充にクソザコちゃんに白羽の矢が経ったらしい。



「勇者パーティにリゼルを?」


「「「はっ!(笑)」」」


「ちょっと!?みんな揃って鼻で笑うのは酷くないかな!?」



思わず俺含め一同揃って鼻で笑ってしまう。いやだってねぇ。あの"勇者パーティ"にクソザコナメクジさんが入るってねぇ。笑い話ですよ。



『勇者パーティ』


大量繁殖したモンスター。そして復活したであろう魔王(実際はまだ誕生すらしていないらしいが)を討伐するために結成された。目下、モンスター討伐の最前線で戦い続けている人類最強パーティといっても過言ではない奴らだ。


勿論、それを率いているのは『勇者』と呼ばれる存在。


俺はまだ会ったことは無いが、噂とメストカゲの話によれば、額に刻まれた聖紋が特徴的で、なんでもその聖紋から無限の魔力が供給されるらしい。


戦闘の技術やセンス等、様々な要素はあるにはあるが、この世界に置いて大半の場合は魔力量はイコールその個人の強さの指標となる。


魔力を込める量によって身体強化の強弱に持続力は変わるし、また攻撃魔法の威力、範囲も変わってくる。


単に魔力が多ければ多いほど"ゴリ押し"が可能になってくるのだ。


ならば、無限の魔力を有する勇者の実力は言わずもがな。


俺でさえ勇者と正面から戦えば勝てるか怪しい。策がない訳では無いが。勇者が男性なら絶望的だ。女の子だったら100%勝てるけど。



そんな勇者率いる勇者パーティに勧誘されたと。クソザコナメクジの即落ちポンコツ口だけ番長のリゼルちゃんが。そりゃ鼻で笑う。



「あのだねガンマ君!確かに多少ほんの少しだけボクには足りない部分があるかもしれなくもないけど!ボクはあの元SSランク冒険者『雷帝』の娘であり、その母から幼い頃から魔法の訓練を受けてきた。何度も言ってるけどボクはなかなかの実力者なんだよ?」


「確かに最上級範囲魔法を連射出来るのは凄いとは思う」


「だろッ!」



クソザコちゃん。雷帝の娘(?)と言うだけあって魔力量はトップランクの冒険者と比べて遜色ない。その上、全属性の最上級範囲魔法を全部使いこなせている。



「だけど、おまえそれしか出来ないだろ」


「ぐぬぅっ……!」



クソザコちゃんのクソザコたる所以。こやつ全属性の最上級範囲魔法"しか"使えないのである。


「火力は正義」と脳筋のギルマス殿の教えを元に育ったクソザコちゃんはいろんな段階をすっ飛ばして各属性の最大火力の魔法のみを習得した。


最上級範囲魔法。詠唱に時間はかかるが火力、攻撃範囲共に申し分ない性能ではある。しかし、それだけで戦っていけるほど現実は甘くない。


クソザコちゃん下級魔法がひとつも使えない。1番簡単な奴ですら使えない。必要が無いと覚えてこなかった。


結果、クソザコちゃんは1人で戦えば魔法を使う前に接近されてボコボコにされるし、しかも使ったら使ったで味方諸共吹き飛ばしたりする。俺も何度吹き飛ばされたかわからない。俺じゃなきゃとっくに消し炭になってるまである。


そこまで考えて思う。あぁ、なるほど。



「逆にそれが都合がいいのか」


「そういうわけだよガンマ君。勇者パーティの後衛を勤めていた魔術師の女性がモンスターに捕まったらしくてね。なんとか助けだせはしたみたいなんだが再起不能らしい」



モンスターに捕まった。それだけで察する。喰われずに捕まった女性の末路など1つしかない。



「それで空いた枠を埋めるために実力のある魔術師であるボクに声がかかったわけさ」


「リゼル以外にいくらでもいるだろうに、なんでよりにもよって」


「ちなみに言い出したのは母だよ」


「ギルマス殿か」


「ああ。ボクの事をよく理解している母直々の推薦さ。勇者パーティが主に相手をするのはモンスターの大軍。殲滅力のある魔術師が必須。それならボクはうってつけだと思わないかい?」



あらゆる面でクソザコムーブをかますクソザコちゃんではあるが、最上級範囲魔法の連射。固定砲台としだけ考えれば優秀だ。



「それにパーティも組まずにふらふらしていた挙句。変な男に引っかかった娘を見かねたんじゃないかな?どこぞの馬の骨ともわからない男に渡すぐらいなら信頼と実績のある勇者パーティに入れる方がいいと思ったんだろうさ。というか母がボクを勇者パーティに推薦したの主にこれが原因じゃないかな?まったくいい迷惑だよね」



不貞腐れたように頬杖をつくクソザコちゃん。変な男。どこぞの馬の骨。一体全体、誰のことを言ってるんだろうなぁ。俺か。自覚はちょっとある。



「そういうことでしたら、ナメクジさんでも活躍出来そうなので、いいんでは無いでしょうか勇者パーティ。入られてみては?」


「そうだぞリゼル。勇者パーティに入るなどと、これほど名誉な事も無い。リゼルがそこで腰を落ちつかせればルスタードも安心するし、鼻も高いだろう。ここは親孝行だと思って入ってみたらどうだ?」



リゼルの話を聞いて聖女ちゃんと女騎士が勇者パーティ加入を推し始めた。



「もしゃもしゃ」



メストカゲはいつ注文したのか大量の激安黒パンをもしゃってた。



「ま、まぁ……!ボク程の実力者なら名高い勇者パーティでも大活躍する事は間違いないだろうね!これまでちょっとアレだったのはボクの活躍の場が整っていなかっただけで、これで本来のボクの実力を遺憾無く発揮出来るというものさ!」


「そうですか。ナメクジさんは勇者パーティの勧誘を受けるのですね。おめでとうございます」


「これでルスタードも安心するというものだ。よし、勇者パーティ入りを祝って食事のひとつでも奢ってやろう。好きなものを頼んでいいぞ?」


「う、うん……」



ふるふると震えながらクソザコちゃんは俺の方を向く。涙目だ。なんで引き止めてくれないの?って顔に書いてあった。


聖女ちゃんと女騎士、クソザコちゃんに喧嘩を吹っ掛けられて以来、対応が雑である。


身から出た錆。自業自得。本気で嫌ってるわけではないとは思う。よく弄るし虐めてるけど。クソザコちゃんはそれで輝くからしょうがないね。



俺は無言で席から立ち上がりギルドホールの方に足を向ける。



「あ、あの……ガンマ君……?どこに行くんだい?」


「ギルマス殿に「貴女の娘は身も心も既に俺のモノなので勇者には髪1本やらねぇぞクソババア」って言ってくる」


「…………へ?」


「なにか問題は?」



あってもなくても行くけども。



「あーーーー…………そのぉ…………流石にクソババアは不味いんじゃない、かな?」


「ならお義母様だな。まったく。だから、さっさと全部まとめてギルマス殿にはゲロっとけばよかったんだよ」


「いやだって……その……心の準備が……恥ずかしいじゃないか……」



クソザコちゃんと関係を持ってから何度かギルマス殿に2人で挨拶しに行こうと誘っては居たが、こやつはその度にアレコレ理由をつけて行き渋っていた。


俺とクソザコちゃんの関係を隠し通せるわけもなく、いずれは対面する事になるだろうに。


嘘、誤魔化し、先延ばし、とかだいたい話をややこしくする。まったくよくないよ。ヤッちゃったらヤッちゃっいました!てへっ!って親御さんにはすぐに言わないと(?)



「ほらボサッとしてないではよ来い。当人のリゼルがいないと話にならないだろ」


「えぇ!?ボクもいくのかい!?ここはまずガンマ君が一人で……――あっ!?ちょっ!はーなーしーてぇー!」



グチグチ言い始めたので首根っこを引っ捕まえて強制連行である。じたばた暴れるがおまえのようなヘナチョコがいくら暴れても逃げられんぞ!



「まったくガンマ様は、そういうとこですよ」


「そういうとこですね……というか、さっき雷を落とされた直後でまた乗り込むのか……流石、旦那様。怖いもの知らずだなぁ」


「もっちゃもっちゃ」



他所の喧騒なんのそのメストカゲは変わらず口を動かしていた。マイペースな奴である。



















「たのもぉお!!!」



ドーンッ!!



ギルマスルームの扉を気合い一発蹴り破った。



「おうおうギルマス殿!アンタの娘は身も心も俺のもんだ!勇者には髪1本やらねぇぞクソババアがッ!」


「ちょっとガンマ君んんんんん!?何をやってくれてるのかなキミはッ!?」



突然の闖入者に部屋の中は静まり返っている。口をぽっかり開けてこちらを見るギルマス殿。そしてギルマス殿の対面にはテーブルを挟んで3人の女性が居た。


もしかしてお取り込み中でした?失礼失礼。



「あぁ……えーっと……これはですね、母上……」



しどろもどろになって目を泳がせているクソザコちゃん。必死に何か言葉を捻り出そうとしているがなかなか出てこない模様。



「おいリゼル……それにおまえはクソ虫か。唐突に何の用だテメェら」



バリバリと髪を逆立て怒りを露わにするギルマス殿。そりゃお怒りなさいますよね。



「リゼルから話は聞かせてもらった!リゼルを勇者パーティに加入させるだとかなんだとか話が進んでるようだが答えはNOだっ!リゼルを勇者パーティには渡さん!」


「あぁん?てめぇには関係ねぇ話だろぉがクソ虫!部外者はすっこんでろ!おいリゼルどうなってんだぁっ!?」


「はひっ……!?あ、あの……その……えっと……だからぁ……ちょ、ちょっとガンマくぅん……これどうするつもりなんだよぉ……」



半泣きで擦り寄ってくるクソザコちゃん。涙目可愛い。


それをギルマス殿に見せつけるように抱き寄せて頭を撫でる。よしよしおっかないお義母ちゃんだねぇ。


クソザコちゃんは俺の胸に顔を埋めてグズグズと現実から逃げ始めた。



「……おい。それは一体どういう真似だ?あぁん?」



そんな仲睦まじい俺たちを見てギルマス殿怒りのボルテージがワンランクアップ。



「どうもこうもない。最初に言った通りオタクの娘さんの身も心も既に俺が貰った。だから関係ない話でも部外者でもないし、勇者パーティにリゼルも渡さないって話だ」


「てめぇ……やっぱりウチの娘に手ぇ出してやがったのか……覚悟は出来てんだろぉなぁッッッ!!!」



怒りのボルテージが更に上がる。天井は何処。



「リゼルももう子供じゃない。娘の色恋沙汰にまで干渉するのは過保護が過ぎるんじゃないか?子離れしろよお義母様!」


「てめぇに問題があんだろぉがこのクソ虫がッ!他のまともな奴ならともかく、てめぇみたいな奴と絡んでたら口出ししたくもなんだろっ!バカかてめぇはッ!」



ごもっとも!いかんいかん正論に思わず納得しかけた。くっ!ここで日頃の素行の悪さを引き合いにだすなんて!汚いぞギルマス殿!(どの口)



「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」



激化する俺とギルマス殿の口論に割って入る声。声を発した人物を見るとギルマス殿の対面に座っていた女性3人のうちの一人だった。


3人の女性を見る。そしてそのうちの一人の額に勇者の証である聖紋が刻まれている事に気がついた。



あ、こいつら勇者パーティじゃね?






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