#14 わからせてやるしかねぇよなぁ!



「まったく、てめぇらは……」



ウェーブのかかった金髪ロングの美女が頭を抱えてため息を吐いている。


冒険者ギルドのギルドマスターであるルスタード=マギさんである。


俺達4人は先程の起こした騒ぎでギルマス殿に呼び出しをくらっていた。勿論、説教である。


いつだか聖女ちゃんと隠れて、こそこそスケベがバレて女騎士に説教された事を思い出した。今じゃすっかり女騎士も説教される側にまわっている感慨深いものだ(?)



「てめぇらの言い分は分かった。✝︎暗黒剣✝︎の奴らが突然、目の前でおっぱじめたと?」


「はい。そうですね。彼らは急に私たちに見せつけるようにあの様な、はしたない行為に及びました。正直、かなり不快で……むしろ、私達は被害者です!」



いけしゃぁしゃぁと語る主犯の聖女ちゃん。いやぁ面の皮が厚くなったなぁ。あの純粋無垢な聖女ちゃんは何処へ行ってしまったのか。すっかり汚れてしまった。汚したの俺だけど。



「ほう?だったら✝︎暗黒剣✝︎リーダーの両腕へし折ったってのは?団長……――じゃねぇや。へし折ったのはラナなんだろ?」



気安い感じでギルマス殿は女騎士に語りかける。ギルドの元締めのギルマス殿と神殿騎士元団長の女騎士は旧知の仲らしい。歳も近く、お互い似たような境遇で意気投合。それなりに仲も良かったとか。


元いきおくれババアの女騎士とは違ってギルマス殿には娘が居るけどな。



「自分の愛する旦那様をバカにされたのだ当然だろう?むしろ殺さなかっただけ上出来だ。よく自制出来たと自分自身を褒めたいところだな。旦那様、褒めてくれ」


「はいはいラナちゃんはいい子いい子」


「えへへラナはいい子ぉ」



雑に頭を撫でたが、それでも嬉しいのか女騎士はトロ顔で抱きついくる。やめなさい人前でしょ。見なさいギルマス殿が珍獣を見る目でおまえを見てるぞ。



「……これがあのお堅かった団長か?まったくの別人じゃねぇか……ホントおまえはコイツにナニしやがったんだ……」



はい。ナニをいっぱいしました。



「ご所望とあれば、いつでも実践しますが?」


「いや、やめておく……」



未亡人にフラれてしまった。


そうギルマス殿は未亡人。本人は夫には先立たれたなどと言っていたが。


くんかくんか。


ギルマス殿、やっぱり処女なんだよなぁ。他の人は誤魔化せても俺には匂いでわかる。ギルマス殿からは間違いなく処女の匂いがする。


しかし、ギルマス殿には娘が居る。ピチピチの可愛い娘が。なんか複雑な家庭の事情があるのだろうね。



「たっくよ……次から次へと妙な問題ばかり起こしやがって。こっちだって暇じゃねーんだ。俺の仕事を増やすんじゃねぇよ。つーか、冒険者への説教とか俺の仕事じゃねぇだろ。どーなってんだ、ああん?」


「そんなこと俺らか知るか。おまえんとこの問題だろ」


「あぁん?てめぇ俺に向かってよく舐めた口聞けたな?ぶっ殺すぞッ!」



バチバチと室内が帯電し、ギルマス殿の髪が怒りで逆立つ。


ギルドマスター、ルスタード=マギ。


雷属性魔術師最強と謳われ『雷帝』の異名を持つ、元SSランク冒険者。その実績から冒険者を引退してギルドマスターに抜擢された実力者である。



「いけすかねぇクソガキが。普段から強い奴の影に隠れてコソコソやってるクソ虫の分際で。それにてめぇうちの娘にもちょっかい出してるようだな?そろそろ痛い目見とくか?ちょっと表出ろ。俺が直々にシメてやる」



「ギャーギャーやかましいなクソババア。そんなんだからその歳でまだ処女なんだよ」



一瞬の空白が生まれる。



「……んんん!?旦那様。今なんて?」


「ん?なんか引っかかるとこあったか?」


「えっと……その……処女?」


「それがどうした?ギルマス殿はまだ処女だろ?」


「「「…………」」」



俺の一言で場の空気が凍りついた。静止する空間。


ギルマス殿は口を開けて固まっている。女騎士はマジ?と目を丸くしてる。



「い、いやまてまて旦那様!ルスタードには娘が居るぞ!?それなのに処女なわけがないではないか!まったくそんな冗談を……」


「そう言われてもな。ギルマス殿は間違いなく処女だ。娘ちゃんとギルマス殿まったく似てないし。なんか複雑な家庭事情があるんだろう。そもそも今のご時世こんな男まさりで粗雑な女に嫁の貰い手が居るとでも?それにどうせ「俺より強い奴にしか興味ねぇ」とか言ったあげく、自分が強くなりすぎて相手が見つからないで、この歳までズルズル来て、娘が居るからこのまま一生独身でもまぁいいかとか、そんなとこだろ。ラナと似た様なもんだな」


「え、いや、あの、その、しかし……確かに「もし俺より強くて、俺と娘の事、任せてやってもいいかと思えるような奴がいたら、また結婚してやってもいいかもな」なんて言ってたな……」


「また結婚も何も結婚した事無いだろうに。何言ってんだ。異性と交際した経験もあるか怪しいところだぞ。処女だし」


「は、ははははは……だ、旦那様?ホント冗談はな。冗談はそれぐらいにしとこう?冗談……小粋なジョークだよな?」



クイッと俺はギルマス殿を指さし、それにつられて女騎士は首をギチギチ言わせながらギルマス殿の方を向く。


そこには顔を真っ赤にして口をパクパクさせるギルマス殿。非常にレアな表情をしている。カメラに収めときたいぐらい。


表情から察するに適当に自分の願望を混ぜつつ予想で話したが、概ね当たってそうである。



「お、俺は……」



ワナワナと震えながらギルマス殿は声を発する。ついでに魔力の高まりを感じる。こいつぁデケェ1発が来るぞ!総員退避!退避っ!



「俺は処女じゃねぇええええぇぇえええ!!!!」



ギルマス殿の叫びと共にギルドマスタールームが大爆発した。











「……まさか……ルスタードが……処女……処女……」



心ここに在らず。女騎士はうわ言のようになにか言ってる。よし、放置しよう。



ギルマスルームから逃げるようにギルドホールに戻ってきた。いやぁ。酷い目にあったなぁ。髪がちょっと焦げた。


まぁキレられるとわかってて、からかったところはあるので自業自得だったりするが。ギルマス殿のレアな表情を見れたので個人的には満足である。


男勝りだが、致命的な弱点を突っついてやると、ああも顔を真っ赤にしてくれる。いいよギルマス殿、可愛いよ。是非ともねんごろしたい。


しかし、今は時期尚早。いずれ手篭めにしてくれようぞギルドマスター。



「いっつッ……!?」



ふしだらな事を考えていたら聖女ちゃんに脇腹を抓られた。



「ガンマ様。ここに貴方の可愛いお嫁さんが居ることを忘れないでくださいね?確かに複数の妻を迎えることは必要な事ではありますが……」



女性比率が多いこの世界では複数の嫁を迎えることを推奨されている。王都に至っては法案で男性は30歳までに子供を4人以上作ることが義務付けられていたりもする。ハーレムを作ることは男性にとって義務なのである。素晴らしきこの世界エロマンガみたい。


ちなみにこれを守れなかった男性は搾精所という施設に送られ10年間の強制労働が待っている。


搾精所。読んで字の如く"そういう"施設だ。徴兵制ならぬ徴精制。モンスターが蔓延るこの世界。死亡率も高い。こういった法案が無いと死亡率が出生率を上回り人類は衰退してしまうのであった。



「でも、それとこれとでは話は別です!私以外と1回したら10回、2回で100回、3回で1000回ですからね?」



聖女ちゃん……そのカウントはなに?主語が抜けてるんですが。1増える事に0が1個増える。闇金でもそんな暴利を貪ったりしませんよ?



「ガンマ様なら、わかってくださいますよね?」



言いつつも俺に有無を言わせぬ迫力がある。圧が強い。聖女ちゃんの愛が重い。ハイかYESで答えてくださいといった具合だ。もちろん答えはハイだけど。



「ちなみにそのカウントって今どれぐらい溜まってるの?」


「ふふふふふ」



ニッコリ聖女ちゃんスマイルで微笑むばかりで返答は返ってこなかった。聖女金融の借金どころか利子すらも俺は一生かかっても払いきれないだろなと思った。くっ!聖女ちゃんに死ぬまで搾り取られてしまう!最高か!


聖女ちゃんとの間に何人の子供が出来るのか。楽しみで他ならない。





「やあやあ、ガンマ君!今日も今日とて派手にやっているようだね!」



そんな未来の展望を夢想していたら声をかけられた。振り返るとニコニコと笑いながら、透き通るような水色の髪の女の子が近づいて来る。



「上から派手な爆発音が聞こえたが原因はキミだろ?今度は何をやらかしたんだい?」



彼女の名前はリゼル=マギ。


最近やっと親の許しが出て冒険者になった。成り立ての駆け出しEランク冒険者ではあるが、親の教育の賜物でランクに見合わぬ実力を持っている魔術師である。


実力はある魔術師ではある。だがしかし、いろいろと理由があり彼女は周囲から敬遠されていて基本的にぼっちであった。


そして俺はその隙に漬け込んでちょっかい(意味深)を出したのはちょっと前の話。



「ちょっとギルマス殿からかったらキレられた」


「なんとなく予想はついていたがキミと言う奴は相変わらず好き勝手やっているね。まったくよりにもよって母を怒らせたのか。どうするんだい?このままではボク達の関係をいつまでたっても母に話せないじゃないか」



リゼルが語る"母"


言わずもがなギルドマスターその人である。見た目も性格もほとんど似てはいないが、彼女こそがギルドマスターの一人娘だ。


そして、俺はそのギルドマスターの一人娘とやんごとなき関係になっていた。



















話はリゼルと出会ったその日まで遡る。


リゼルを見つけたのは魔王の情報を集める振りをして、可愛い女の子はいないかとギルド内を1人ぷらぷらしていた時である。


透き通るような水色の髪。歳は俺と同じぐらいの美少女が、1人ぽつんと突っ立ってクエストが貼られているボードを眺めていた。


周りに人は居ない。ぼっちである。むしろ、皆がみんな彼女を避けるように遠巻きに行動している。歪な空洞が彼女を包んでいた。


彼女はそれを当然の様に受け止め、実に自然体。その横顔は一人なのは当たり前だと言わんばかりにどこか冷めきっていた。



実に不快な光景だった。



「やあやあ、お嬢さん!今日も今日とて王都は君のように美しい花で満開だね!」



とりあえずナンパした。



「……なんだいキミはボクに何か用かい?」



冷めた表情。冷えた声。不愉快さを微塵も隠さずに彼女は答える。



「1人のようだから、もしよかったらご一緒にどうかと思ってな」


「……ボクが誰だか知らないのか?」


「いや、まったく知らん」


「なるほど。キミのような無知な存在もギルドにまだ居たのだね。知らいなら教えてあげよう。ボクはかつて雷帝と謳われたギルドマスターの一人娘。リゼル=マギだ。まだ成り立ての冒険者ではあるが、そこいらの有象無象よりは実力はある方だと自負している。キミのような一介の冒険者――ん?キミのことは初めて見る。キミも駆け出しかい?」


「ここに来たのは最近だから駆け出しといえば駆け出しだな」


「やっぱりね。そうだと思ったよ。キミのような、うだつの上がらなそうな男は実力も大したこと無さそうだ。実際、大した実力もない底辺なのだろ?キミとボクとではまったく釣り合いそうにない。よかったらご一緒に?バカも休み休み言ってくれよ。足を引っ張られる事が目に見えてるのにどうして"ご一緒"しなければならないんだい?無駄だろうそんなことは。キミみたいな奴とご一緒するぐらいなら一人で居た方がマシだね」



イラッ☆


なんだこのクソ生意気なメスガキは。どれだけ自分に自信があるんだ。わからせてやろうか?ああん?



「でも、もしもキミがどうしてもボクとご一緒したいなら。そうだね。額を地面に擦り付けて誠心誠意ボクにお願いすることだね。そうしたら考えてあげてもいいかな。キミのような底辺男と行動するのは不愉快極まりないが、荷物持ちぐらいでなら使ってあげてもいいかもしれないね。流石にキミのような奴でも荷物を持つこと、歩くことの2つの行動ぐらいは出来るだろ?あ、でも大した量の荷物も運べなさそうだね。これは荷物持ちも厳しそうだ。そうなるとキミに出来ることが無さそうなんだが、どうするんだい?キミは呼吸すること以外に出来る事はあるのかい?なんにしてもキミはこうしてボクの貴重な時間を奪っていることに対して謝罪をした方がいいと思うんだ。キミのどうでもいい人生と比べてボクの人生は貴重なものだからね。謝罪の仕方はわかるかい?まずは膝を折って、両の手のひらを地面につける。そうして顔面を地面に擦り付けながら「ごめんなさい」って言うんだ。ほら、ごめんなさい」




ブッツン。俺の中の何かがブチ切れた。






















「ひぐぅ……!ごめんなさい!ごめんなさいっ!生意気なこと言ってごめんなざいっ……!あやまるっ!あやまりますからッ……!だからもう――」



クソ生意気なメスガキを誠心誠意全身全霊全力全開手加減無しで、わからせてやった。









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