#11 新春、王都大運動会



周囲は蜂の巣をつついた様な大混乱に陥っていた。もはや結婚式どころではない。我先にと逃げ惑う人々。



「みなさん!落ち着いてッ!」



聖女ちゃんの叫びは届かない。焼け石に水だ。



『ドラゴン』


それは人類にとっての恐怖の対象である。


普段は滅多に見かける事は無いが、奴らは気まぐれに姿を現しては村や都市などを襲撃する。


目的は食事だ。ドラゴンもモンスター。人を食糧としか見てはいない。人の住む所は食料庫ぐらいにしか思ってない。


その圧倒的な暴力と食欲。ひとたびドラゴンが襲来ふれば被害は甚大だ。運良く撃退出来れば良いが。それが出来なければ、村は丸呑み、町は壊滅、都市にも大きな傷跡が残る。


まさに災害。それが全てドラゴンの気まぐれなのだから手に負えない。故にドラゴン全般が災害級の特級モンスターに指定されている。



そして今現在この王都に接近するドラゴンは多分それどころでは無い大物。



混沌とする王都を場違いな麗らかな春の陽気が包み込んでいる。



もうすぐ夏が始まるこの時期に。何故こうも春を感じるのか。まるで時間が遡ったかのように。


今日、確かに違和感はあった。梅雨時期に一切ジメジメせずポカポカと暖かい日だな、なんて思ってはいたが、なるほどそういうことか。



答えはひとつしかない。



こちらに向かってくるドラゴンはおそらく奴。


四季龍の一体。"春"を操る神話のドラゴン。銀月龍ハリング。


そんな銀月龍の権能の一旦。銀月龍の周辺一帯は春となる。奴が接近するにつれ、その影響を受けた王都が春に近づいているのだ。



あのメストカゲ。まさかとは思うが俺を追ってきたのか?



「ああぁぁあああぁるうううぅううじぃいいーーーーーッッッ!!!!」



あぁ、そのまさかっぽいなぁ……。


どこか遠く。聞いたことがある声が俺の耳に届いた。



「そ、そんな馬鹿なっ!あれは……!」



隣の女騎士が絶望の表情で空を見上げる。


王都上空。銀色の翼が大きく広がった。


放たれる淡い銀光が王都を包み植物達が芽吹き始める。色とりどりの花が咲き誇り、若々しい木々が天に向かって背を伸ばす。


王都は春に包まれた。



「あっ……あっ……」



聖女ちゃんは真っ青な顔で身体を震わせる。声にならない言葉が口から漏れる。



2人とも王都に襲来したドラゴンに恐怖して――。



「ご主人様ッ!?あのドラゴンのお腹に私と同じ刻印がされてるように見えるのですが!アレはどういう事なんですかね!?」


「ガンマ様ッ!?私にはしてくれなかった刻印があのドラゴンさんのお腹に刻まれてる様に見えるんですが!どういう事です!?」



……いなかった。



大きく翼を広げたメストカゲは、その下腹部を晒している。そこにデカデカと刻まれている俺が刻んだ淫紋が僅かに発光していた。


目敏くその淫紋に気がついた2人に問い詰められる。あれじゃ目立つもんなぁ淫紋。



「したのか!?あの伝説の銀月龍を相手にご主人様はしたんだな?!する事にとやかく言うつもりは無いが!アレが来たのご主人様が原因ですよね?わりと洒落になりませんよコレ!王都が壊滅するぞ!?」


「くぅ……!あのトカゲさんズルいです!あんな風に刻印を見せびらかせるような真似をして!アレでは王都国民全員にガンマ様のモノですアピールしているようなものじゃないですか!私も大々的に国民全員――いえ世界中の人々にロエはガンマ様のモノですアピールしたいです!」



いや待て2人とも。確かにあの淫紋は女騎士の淫紋と類似している。というか全く一緒のものだが、それを俺が刻んだとするのは早計過ぎやしないかな?まぁ俺が刻んだ淫紋なんだけどさぁ。


嫁2人が俺に詰め寄りわーぎゃー言っている。



てんやわんや。



「あるじぃいいいッッッ!!!何処だッ!?この辺に居るのは理解っている!さぁ!共に我らが愛の巣へと戻り、もっと沢山の子を作るのだ!交尾!交尾ッ!」



上空のメストカゲが辺りをキョロキョロしながら、大きな声で交尾を連呼している。というか、やっぱり俺を探してここまで来たのねメストカゲ。


俺は《魔法鏡》を発動して俺含め3人を囲う様に展開した。これで外からはこちらが見えなくなる。



混沌とする場。王都全域は春に侵食され、嫁2人に両肩を掴まれガクガク揺らされ、空の上ではドラゴンが俺を探して喚き散らす。


どうしてこうなった。もう嫁2人抱えてバックレようかな。流石にあかんか。これから新婚初夜ックスだというのに。あぁスケベしたい。



喧騒が聞こえる。見るとメストカゲ目掛けて、矢に砲弾、バリスタ、投石が飛び交い。それに爆炎や激流、風弾に稲妻と色とりどりの攻撃魔法が殺到していた。



「わぁ!花火みたいで綺麗ですね!」



王都の防衛部隊か、騎士団か、冒険者達か。メストカゲを撃退せんとする攻撃だ。


しかし、そのどれもがメストカゲに届くことは無い。展開している魔法障壁に阻まれ、尽くが無力化されていた。例え障壁が無かったとしても、あの程度ではメストカゲに傷1つ付けることさえ叶わないだろう。



「我の視界を遮るな。煩わしい。喰うか……いや。アレを試してみるか」



メストカゲがボヤくと銀光が光を強める。ぶわりと王都一帯に花粉が舞った。辺り一面、霧状に埋めつくしていく。


む?これは……。


一瞬、吸ったら不味いかとも思ったが"俺"にとってこれは害はなさそうだ。



「あるじのを真似た我特性の花粉だ。お、早速まぐわい始めたな人の子よ」



ちょっと吸って理解した。この花粉をひと吸いすれば強烈な発情効果。感度強化に催淫効果を促す花粉のようだ。メストカゲは俺の《発情霧》を真似たのか。


これは凄い。こんなの普通の人間が吸い込めば、理性が吹っ飛んでスケベ以外の事を考えられなくなるぞ。媚薬の花粉とでも言ったところか。


まぁ常日頃からスケベに脳を支配された俺にとってはまったく効果が無い。まさに空気のようなもの。



「こ、これは……!みな急にどうしたと言うのだ!?」


「わぁ。皆さん猿みたいに腰振ってます!」



隣を見ると聖女ちゃんと女騎士もケロリとして効果無し。流石、俺の嫁。いっぱい仕込んだだけはある。この程度の媚薬ではもう効き目がない。



しかし、一般人はそうもいかない。



至る所から甘い声が響き始める。媚薬の花粉を吸い込んで理性を失った人々がところ構わず、おっぱじめている。


王都大乱交大会が開幕した。しゅごい!エロマンガみたい!


《魔法鏡》を発動しておいてよかった。今の状況で絶世の最強美少女の聖女ちゃんを見たら襲いかかる野郎が大勢いたことであろう。俺でさえ聖女ちゃんを見てると定期的に理性がぶっ飛んで襲いかかるのに。視界を遮っておいて正解だったな。


まぁ聖女ちゃんに色目使う奴は全員女体化からのゴブリン村送りにしてやるが。俺の聖女ちゃんだぞ。触れようとする男は等しく、ブツを消滅させる。



「なるほど。こうして人の子の数を増やせば大量に喰えるということか。そうだ、励めよ人の子。交尾し、子を成し、数を増やせ。そして我の腹を満足させろ」



うわぁ。家畜の様に人間を養殖ってか。メストカゲがいらん事を覚えたわぁ。誰のせいだ全く。俺か。


見るとメストカゲへの攻撃が止んでいた。おそらく攻撃していた連中も媚薬の花粉の効果で戦闘不能になってしまったんだろう。今頃きっとお楽しみ中だろうね。



「ご、ご主人様。大変な事になってるんだが……こんなの、もはや私の手にあまるぞ!どうするんだ?」


「ガンマ様!皆さんがまぐわっているのを見ていたら私もムラムラしてきました!私達もいたしましょ?」



わりと真面目な女騎士に対して聖女ちゃんは自分の欲望に素直過ぎる。聖女ちゃん……俺もめっちゃムラムラしとる。



「そうだねロエちゃん。俺もこんな可愛い花嫁が傍に居て流石に我慢の限界だ」



ガバっと聖女ちゃんを抱き寄せる。滑らかなウェディングドレスの肌触り、服越しに伝わる華奢だが豊満な胸の弾力。そして、なんかめっちゃすごくとてもいい匂い(語彙力消失)



「ロエちゃん……」


「ガンマ様……」



熱に絆され赤ら顔。うっとりとした情熱的な視線が絡み合い。どちらからともなく顔が近ずき、ちゅっちゅっする。唇やわかい天にも優るこの快楽。絡む舌と舌。聖女ちゃんの聖なる唾液が今日も美味い。最高。



「2人でズルい!ラナもっ!」



それを見て堪らず女騎士が俺の首にと飛びついてくる。二人の間に割り込むように女騎士の唇が割って入ってくる。



「ラナっ!今は私とガンマ様がちゅっちゅっしてるところです!こういうのは順番ですよ!順番!」


「じゅるじゅる!いやでふ!そう言ってロエ様はご主人様を独り占めにしてラナを放置プレイするんだ!「100回1セットです!」とか言ってまったく順番で譲る気ないじゃないか!もうその手には乗らんからな!」


「譲る気が無いわけではありませんよ?満足するまで譲る気が無いだけです。ただ私もガンマ様も一向に満足しないだけで」


「ほら!やっぱりっ!」



あーだこーだと言い争いを始める花嫁2人。


やめて!私の為に争わないで!(言いたかっただけ)



「あーるーじーっ!どーこーだーっ!」



上空では俺を探して飛び回るメストカゲ。


いい加減うっとおしくなってきた。お楽しみを邪魔されても癪に障る。


よし撃墜しよう。適当に淫紋経由で魔力吸い取れば無力化出来るだろ。あいつら基本的に魔力が無ければ何も出来ないし。



「《次元穴(ワームホール)》」



48のスケベスキルが1つ

《次元穴(ワームホール)》


空間と空間を繋ぐ穴を生成する魔法だ。早い話がどこで○ドア。下半身ら辺の空間を繋いで、いつでもどこでも、弄ったり弄られたり、入れたり出したりするために作った魔法だ。


様々な用途に使え、なかなか便利魔法ではあるのだが、如何せん時空間魔法系は魔力消費がかなり多い。《転送》と違い空間と空間を常時、繋げ続けるため燃費も悪い。


さらに長距離を《次元穴》で繋ごうとすると流石の俺でも魔力消費がかなり厳しくなる。


そして、大きさ。繋ぐ穴を大きくすればするほど魔力消費が増える。大体は腕1本通る位の穴が諸々の事情と照らし合わせて現実的である。便利なものほど制約があるのだ。


今回繋ぐのは俺の目の前とメストカゲの下腹部、淫紋が刻まれた所。


そこに手を突っ込んで淫紋に触れる。



「ぬおっ!?これは……ある――おおんぉおッッッーーー!!!?!」



淫紋が光る。メストカゲに快楽を与えながら魔力を吸収する。全部いったれ。


メストカゲの巨体が大きく跳ねた。ふらりと力を失ったメストカゲは空から堕ちていく。そして、轟音と共に派手に教会に墜落。



あ、やべ。教会が倒壊した。



「んな!?な!?なっ?!ドラゴンが落ちてきて教会がッ!?ご主人様またなんかやったな!?」


「失敬な!俺は淫紋経由で魔力を吸っただけだ。教会が潰れたのは俺の責任じゃないぞ!アレが勝手に突っ込んだんだ!」


「やっぱり!その原因を作ったのご主人様じゃないか!?どうするんだ!あぁ、由緒正しき王都の教会が……こんな……」


「原因を問いただしたらキリがないからな。何事もやった奴が悪い!大丈夫。みんな真っ最中だし。言わなきゃバレん。全部、ドラゴンの性にしてしまえ」


「確かに!くっ……忌々しいドラゴンめ!よくも教会をっ!」



女騎士の白々しい三文芝居。



「ラナ!教会の中にまだ人が居たはずだ。救助してこい!それぐらいなら今のお前でも出来るな?」


「加護が無くなったとはいえ、それぐらいなら朝飯前だ!任せろ!」



指示を出すと力強い返事が返ってきた。流石は元団長。頼もしい限りである。



「俺はあのメストカゲを制圧してくる。魔力を吸い取ったとはいえ、あの巨体で暴れられたら、また被害が出る。そっちは頼んだぞ!」


「ああ、心配はしてないが気をつけてくれ、ご主人様」



言葉を交わして行動開始しようとしたところで聖女ちゃんから待ったがかかる。



「ガンマ様、待ってください!私もお供します!」


「よし、わかった。一緒に行こうロエちゃん」



二つ返事で了承した。聖女ちゃんが居ても居なくてもどちらでもよかったりする。むしろ危険がある分安全な場所に居て欲しい気持ちはある。でも傍に居てくれるなら幸せなので傍に居てもらおう。


すかさず聖女ちゃんをお姫様だっこすると、聖女ちゃんの両手が俺の首に絡まる。やはり幸せ。ずっと傍に居て欲しい。



「あーーーっ!?」



それを見て女騎士が声を上げる。



「ラナ、ストップ。あとで同じ事してやるから我慢しろ」


「ぐぬぬぬぬ。わかった……約束だからな!」



言うや否や女騎士は身体強化を発動して走り去った。凄い悔しそうだった。女騎士よ。その表情が超似合う。



「ふふふ」



聖女ちゃんが、それを見てニコニコしている。言わずもがな。


ふと聖女ちゃんと至近距離で目があう。反射的にちゅっちゅっした。しとる場合か。


そのままくんずほぐれつしたい気持ちを断腸の思いで断ち切り。俺は聖女ちゃんを抱えたまま、メストカゲの元に駆け出した。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る