次の日の朝、俺達は七時に校門に集合した。そして裏山を目指して歩き出した。俺たちの高校は山の裾野に建っている。高校の横にある一本道が裏山へ入っていく唯一の道になっている。その道を歩いていくと、少し開けた場所に出る。おそらく駐車場として使われていたのだろう。その場所の隅にガラクタが放置されており、その付近に野良猫がよく集まっている。そして今その場所についた俺達の目に写っているのは、ガラクタの前で座り込んでいる二人の女子生徒だ。


「あの、すみません」

 上戸が声をかけると、二人の女子生徒は驚いて肩をビクリと動かした。振り返った女子生徒は制服のリボンの色から二年生というのが分かった。俺から見て右側にいる女子生徒はメガネを掛けており、もう片方は髪の毛をポニーテールにしている。まさかこんな所に人が来るとは、とでも言いたげな顔をしている。そんなにも驚くようなことだろうか。

 ふと、彼女たちから以前玄関で感じた匂いがするのを感じた。何の匂いだったかな。

 ふと二人の女子生徒の肩越しに目をやると、子猫がじゃれ合っているのが見えた。ビンゴだ。

「どうかしたの、こんなところで。あなた達一年生よね? 何か用かしら」

 キツい口調でメガネの女子生徒に問われた。まさか本当に子猫がいるとは思いもしなかったし、ましてや人がいるとも考えてもいなかった。答えに窮していると、上戸が返事をした。

「ごめんなさい。校舎の裏山になにかあるのかなって興味があって来ただけなんです。そしたら先輩たちがいてつい声を掛けてしまいました。それにしてもかわいい子猫ですね。この子達はどうしたんですか?」

 上戸のにこやかな表情のおかげか、それとも子猫について聞いたからなのか、少し表情を緩めてメガネの女子生徒は答えた。その内容は俺たちが昨日導き出した内容と同じだった。子猫の存在を知ったのは、学校帰りに暇つぶしに裏山の方へ行ってみたかららしい。そしてポニーテールの女子生徒は立ち上がると言った。

「このことは内緒にしておいてね。後々面倒だし。大丈夫だよね?」

 圧を感じる言い方だった。俺達は同意の意味を込めて大きく頷いた。しかし何故ここまで秘密にしたがるのだろうか。


 俺達は先輩達に軽く別れの挨拶をしてその場を離れた。俺はふと彼女達からした匂いが何だったか思い出した。煙草の匂いだ。どこかで嗅いだ事がある匂いなのは三角公園でよくする匂いだからだ。先輩達はきっと校舎の裏山でこっそり煙草を吸っていたのだ。その時に子猫を見つけたのだろう。だから俺たちが声を掛けた時に必要以上に驚いた様子だったし、別れ際に秘密にするように念押ししてきたのだ。

 この事を上戸に話した。驚いた様子だったが、なるほど、と納得してこう言った。

「先輩達とのこと秘密にしないといけないから、小説にするのが難しくなったね。どうしようか」

「そんなの簡単。書かなければ良いだけだよ」

「なるほどね。何だか自信満々だね。タイトルはもう決まっているの?」

「勿論もう決まっているよ。タイトルは『五分じゃ短すぎる』だ」

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五分じゃ短すぎる 裕理 @favo_ured

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