第123話
フェロメナに言われ、エヴァは渋々と他の子供達の元へと歩いていく。
マルクは橙夜を村の中の屋敷に案内し、フェロメナの肩に支えられながら彼は続いた。
背後からぞろぞろと数人の男が、橙夜を容赦なく叩きのめした連中も入ってくる。
皆、神妙な面持ちだ。
「まず、この事態に君を巻き込んだことを謝ろう……」
「足利橙夜です」
「……トウヤ」
トウヤが見回すと、老人を含めた九人の男性と、フェロメナともう一人女性がいた。
「まず我々の素性を話そう。我々は奴隷だ」
「ど、奴隷」虚を突かれた橙夜は目を丸くする。
「そうだ……この国では珍しくない筈だがな」
マルクは不思議そうだが、橙夜は知らなかった。
まだこの国に奴隷制度が残っているなど。
「君も知っている通り、この国は十二年前に隣国ラテリアと戦をしていた」
「え?」
「知らねーのか小僧」
橙夜を殴った男が眉を潜める。
「ヨー、この少年はその頃まだ子供だっただろう。知らないのも当然だ」
片腕の男が諫めるが、そもそも橙夜はその頃この世界にいない。
「戦はエルドリアが勝利し、ラテリアの領土が割譲された。マリータとダーンの産まれた村はその時エルドリアの領土になり、住民は奴隷に落とされた」
「……そ」そんな、と言えずに橙夜は立ちつくす。
マリータと呼ばれた若い女が目を伏せる。
「それだけじゃねー、俺達は傭兵だった。だから戦で捕らわれたら死刑か奴隷だ。貴族様は身代金で助かるがな」
片手の男を諫めた髭の男が補足する。
「いやルド。マルク様はどうなんだ?」
ダーンと言う名前らしい若者が憮然とする。
「マルク様は、ラテリア王国の王族なんだよ」
フェロメナが囁き、橙夜は混乱する。
……王族? なぜそんな人が奴隷に?
「罠だ!」
今まで黙っていた長身の中年男性が怒る。
「何もかも罠だったのだ……マルク様は長子であられるが嫡子ではなかった。だから敗色濃かったラテリアは総大将たるマルク様の居場所をデキウスに知らせ、身代金さえ払わなかった」
「もう良いファース」
マルクは微かに微笑む。
「私がこのような目に遭うのは私の不徳、しかし他の者達は奴隷とはいえあまりの仕打ち、だから私達は脱走したのだ……この地まで犠牲を出しつつ流れ、噂を聞きつけた。この領地の領主の娘は気さくに村々を回ると」
「……だから、ユーノを……」
「そうだ、私は直々にマリューン伯と交渉したかった。その為に娘たる彼女が必要だった」
「交渉?」
「奴隷の解放とこの村の不平等な税制を改革して欲しい、と」
橙夜は探す、彼等の瑕疵を。
そうじゃないと橙夜達が奴隷を使っていたと同義になる。
「と、捕らえたユーノに何をするつもりだったんだ!」
「我等を愚弄するか!」
長身の男、ファースが怒鳴った。
思わず首を竦める橙夜に、マルクはそっと語る。
「何もするつもりはない、傷一つ付けるつもりもなかった。それはラテリアの王族として誓う……何よりも捕らわれた女達の運命を我等が知っているからな」
呆然とする橙夜の前でマリータが顔を覆い、傍らのフェロメナも奥歯をならす。
「いい、私はエヴァを愛している。……例え父親が分からなくても」
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