第73話

「さあ! 言い訳を言ってみなさい!」

 ……わー、蒲生さんてこんなに怖い顔になるんだぁー。

「いつまで黙っているの? そうしていれば許して貰えると思っている?」

 澄香が腕を組んで仁王立ちしている。

 一方、橙夜は正座をしながら現実から逃避していた。

 ……この世界に来てどれくらい経ったかなぁ。もう秋だなぁ。向こうでは俺達が消えたことで大騒ぎかなぁ。

 小屋の中はまだ 夏の熱気が滞留している。

 これから『死の冬』と呼ばれる過酷な季節が来るなんて思えない。

「いくらジュリエッタが美人だからって、お風呂を覗くなんて! ……もしかしてそれが目的でドラム缶風呂作ったの?」

「人間はいつも欲情しているポロ」

「兄さん、私トウヤ怖いリノ」

「あーあぁ、トウヤ君、みんなぁ頼りにして板のにぃ」

 はたと、今の自分に気付く。

 このあまりにも理不尽な状況。

 視線を彷徨わせると、にたにたと笑うマーゴットがいた。

 指輪が嵌っている手を振っている。

『悪魔やで、あん娘は悪魔や! わいは騙されたんや! ホンマや』 

 橙夜が天派って事情。事実を訴えても帰ってきたのはばっちーん、と凄まじい威力の澄香ビンタだった。

「何、マーゴットのせいにしているのよ!」

 ではもう何もない。

 きりきりと澄香が奥歯を鳴らす。

 余程怒っているのだろう、入浴時よりも顔は赤い。

「見損なったわ橙夜! ジュリエッタをあんなにして」

 彼女の指すジュリエッタは、

「うううう、きゃわ……うううう」

 と毛布を体に巻き付けて蓑虫のように顔だけ出してガクブルしている。

 ……以外と脆いんですね。

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