第70話
「これはすごい物じゃ。世界を変える。まさか鉄の筒が風呂になるとは……わしらも自前の物を作って良いか?」
「ええ、ただし誰かが入っている時、一人は付けて下さい。温度調節もありますし、火を使うので危険な時もあります」
「うむ、わかった……では、わしらは家に帰るとする。家畜も手に入ったし、風呂も作らねばならぬ」
イデムとガドムはジュリエッタにもう一度礼を言うと、牛や豚を引き連れて帰って行った。
「ううむ……」とその夜、ジュリエッタは何か悩んでいるようだった。
「どうしたの?」
澄香が訊ねるが、彼女は床に視線を当て、「ううむ……」とじっと考え込んでいる。
「決めたわっ!」
朝方、その叫びで橙夜は目覚めた。
「あれ? ジュリエッタは?」
上階の部屋から下を覗くと、寝ぼけ眼のアイオーンがいる。
「なんだかぁ、悩んでけどぉ、起きた途端、叫んでぇ、走っていったぁわぁ……獣のようにぃ……ジュリちゃんはぁ読めないなあ」
ジュリエッタは昼過ぎには帰ってきた。
セルナルの街に行ってたらしい。
「これのためにっ!」
彼女は四角い何かを握りしめている。
「石鹸?」
澄香にジュリエッタは大きくかぶりを振る。
「ただの石鹸じゃないわっ! これは香水を混ぜた石鹸! 洗うと体が香るのっ!」
「あああああ」
澄香の目が、マーゴットの目が、リノットの目が輝いていく。
「な、何て素晴らしい物を……ジュリエッタ! 今あなたは輝いているわ!」
澄香はまるで天使でも降臨したかのように、ジュリエッタを見上げる。
「うぅん?」
ただアイオーンにはあまり響いていない。
「でもさぁ、香水のぉ、匂いってぇ、私はぁ、あまりぃ、好きじゃないなぁ」
「そうポロ」
ポロットは深く頷く。
「それで体から匂いが出るようになると、動物には警戒されるし、ゴブリンとかにも接近がばれるポロ……」
ポロットは硬化した。
アイオーン以外の女子陣の殺気の視線を受けたからだ。数年は解けないだろう。
「……とにかく。これでお風呂が、お風呂が……乙女の夢に変わるわ」
「ええジュリエッタ、あなたは今、とっても素敵よ」
橙夜は口を挟まない。
ただへそ天になっているタロの腹を優しく撫でるだけだ。
今下手を打つと大変な目に遭うと、もう彼は学習していた。
だが……世の中の悪しき陰謀全て把握するのは、流石の橙夜も不可能だった。
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