第68話
「え、ええと……その、私達は……」
澄香も泣きそうになりながら言い訳を口にしようとしていた。
「いいのよ、分かっていたから」
ジュリエッタは表情を変えず二人から視線を外すと、ガドム達が引いてきた荷車を指さす。
「で、アレ何?」
それはここにいる皆の疑問だったらしく、アイオーンもポロット、リノットも、マーゴットも彼を見つめた。
「これは……」
橙夜は頬の熱を冷ますように颯爽と歩き、イデムの荷車の上にある鉄で出来た円筒を軽く叩く。
「あ、これって……」
澄香は理解したらしく、表情が明るくなる。
「ドラム缶風呂さ」
「どらむかん、ぶろ?」
マーゴットは不思議そうに繰り返す。
「イデムさんあれも作って頂けました」
「当然じゃ」
イデムは木桶と穴の開いた棒、石の台、木の階段とドラム缶の中に沈める丸い木の板を示した。
「全てお主の言う物じゃ。何が何だか分からなかったが」
「……ねえ、お風呂ってアレでしょ? 暖炉の火で温めたお湯を湯船に入れる奴」
ジュリエッタが怪訝そうに訊くのは当然だ。
この世界の風呂はまだその段階だ。
湯をそれなりの大きさの入れ物に溜めて入る。
実は風呂について橙夜は何度か試したことがある。
だがその方法では湯はすぐ冷め、数人しか入れない。お湯を何度も沸かして、何度も水を捨て汲む。非常に効率が悪いし疲れる。
だから考えたのがドラム缶風呂……ただ、溶接が必要なドラム缶を作るのはまだ難しそうだった。
物作りが得意らしいドワーフに訊ねて見たのは半分本気じゃなかった。
「そんな物簡単じゃ」
イデムの返答だ。
どうやらこの世界には溶接に近い魔法があるらしい。
故にこの間の依頼の折、依頼料として制作を頼んだ。
「薄いてつを丸めるのがむずかしかったら」
ガドムも手伝ってくれたようだ。
「ねえ、おふろって?」
興味津々のマーゴットがしびれを切らす。
「ああ、ポロット手伝ってくれ」
橙夜はポロットの手を借り、まず人間大の缶を石の台座に置く。澄香が気を利かせて薪をその下に運んでくれる。
次に水桶を手に近くの小川から水を汲み、缶に入れた。
「ええっとぉ」アイオーンも初めて見る光景にやや困惑している。
下の薪に火を点けた段階で、ようやくジュリエッタが手を打つ。
「成る程、これでお湯にする訳ね……でも鉄の底が熱くて入れないわよ」
「だからこれがあるんだ」
橙夜はドラム缶に沈める木の板を手に取る。
「でも、それでも底以外は熱くて火傷するわ」
「それが違うんだな、まあ見ててくれ」
橙夜はジュリエッタの不満顔に片目をつぶると細い穴の開いた棒で息を吹きかけ炎を調節する。
しばらくの後、手をドラム缶の中に入れ湯加減を調べた。
「頃合いだね」
木の階段をドラム缶に立て掛ける。
「さあ、誰が入る?」
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