第67話
力尽きた後、裸で抱き合いながら二人は見つめ合っていた。
うふふふ。
と澄香が笑う。
「ん? どうしたの?」
「まさか私がこんなに淫らになるなんて……元の世界に帰ったらお母さんの顔、見られないよ」
ずきり、と橙夜の胸が痛む。
彼は元の世界、現代日本に帰るつもりはない。
この世界で罪を犯してしまったからだ。
さらに川中亮平を殺すとも誓っている。
「うん? どうしたの橙夜君……て、もしかして元の世界に帰ったらこの関係を無かった事にしようとしている?」
澄香の顔が急に怖くなる。
「そんな事をしたら、クラスの女子全員にカンパを募り、有志で橙夜君の家の周りでデモを起こすからね」
恐ろしい考えだ。
「それが嫌ならお父さんとお母さんにちゃんと挨拶してね。私の家は隠し事をしないの。だから橙夜君との関係も全て話すわ。ちゃんと両親公認で結婚前提のおつきあいをしましょう。あ、私のお父さん和菓子屋だから修行が必要だよ」
何だろう。いつのまにか人生が設計されている。
「もしかしてイヤなの?」
澄香の瞳にカミソリの光が宿るから橙夜は慌てて首を振る。
「そ、そんな訳ないだろ! 澄香はもう恋人だよ……ただ」
「ただ?」
鋭く追求する彼女に、橙夜は誤魔化す方法を思いつく。
「いやー、あの赤いエルフが見つかるかなって思って……その……帰るために」
功を奏したようだ、澄香も憂い顔になった。
「そうだよね……リリルの村の人も、イデムさん達も知らないって言ってたもんね……」
今度は心配になった。
澄香の思い悩む姿は見ていたくない。
橙夜の手が澄香の絹のような手触りの肌を滑る。
「ちょっと! 橙夜君! 静かにお話ししている時に、どこを触っているの! ああもうっ! エッチなんだから」
澄香は少し怒って、橙夜の手を下の毛から引きはがした。
が、まだ攻撃は終わっていない。
もう片方の手で肩を抑え、汗が香る澄香の体に顔を寄せる。
「はあっ」澄香は女の子の匂いのする温かいため息を漏らす。
「ほ、本当に胸が好きだよね……て、それ……橙夜君は赤ちゃんなの?」
行為の後、いつも二人は素知らぬ他人顔でジュリエッタの小屋に戻る。
橙夜はいかにも訓練していました体でショートソードを抜き身で持ちながら、澄香と並んで帰宅した。
セルナルの街に行っていたジュリエッタはもう帰っていた。
丁度、イデムとガドムのドワーフもやって来ていた。
荷車に橙夜の依頼の品を乗っけている。
辺りは凄まじく煩く獣臭かった。
ジュリエッタが魔法の大金槌を売り、その金で家畜を仕入れたからだ。
「おお! なんともすごいのう」
イデムは丸い目を何度も瞬かせた。
かなりの数の家畜だ。
豚に羊に牛、それも総数二十頭近くいる。
「あのダークドワーフにわ悪いことをしたわね」
ジュリエッタは手に持った袋をイデムに渡した。
「あの魔法の武器、かなりの値が付いたのよ。だからこれだけ家畜を買っても半分余ったわ」
「おお、そうなのらか?」
ガドムが手を叩いて喜ぶ。
「これは今年だけではなく何年分にもなったら」
「そうね、何せ牛や豚の中に若い雌も入っているから、ちゃんと飼育すると結構先まで持つわ」
「ならば」イデムはジュリエッタに渡された袋を、彼女に変えそうとする。
「半分はお前達に渡そう、手間賃じゃ」
「それはダメ」ジュリエッタは即答する。
「私達の分としてトウヤから何か依頼を受けたんでしょう? 冒険者の仁義を欠く行為だわ」
「そ、そうか……お主も融通が利かないのう」
「あたしもかつては貴族。最低限のルールは守る」
ジュリエッタは自分に言い聞かせているようだ。
「あらっ」ここで彼女は橙夜達に気付いた。
「もう終わったの?」
橙夜の顔が真っ赤になる。
どうやら二人の行為はとっくにバレていたようだ。
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