第66話

 ドルケルの山から帰還した次の日の午後、橙夜は約束の時間に約束の場所を訪れた。

 ジュリエッタの小屋からやや離れた小川の近くの草むら。太陽の光が一本の大きな広葉樹により陰り、自然に心地の良い体感温度になる澄香が見つけた場所。 

 彼女は既に来ていた。

 草の地面に毛布が敷かれている。

「蒲生さん、待たせたかな?」

 澄香ははにかんで首を振る。

「足利君……何か変わったね。ずっと悩んでいたのに、何かあった?」

 何か……確かに橙夜の心は軽くなった。

 だがそうなった契機が思い出せない。

 イデムの小屋で眠った後からだ。

「……蒲生さんがいるからだよ」

 橙夜が自分でも良く言えたと思いながらの言葉を受けた澄香は、赤くなってそっぽを向く。

「だと良いんだけれど……ねえ」 

「ん?」

 今日の澄香は何か違う。含むところがあるようだ。

「どうしたの? 蒲生さん」

「別にー、ただジュリエッタは美人だなぁ、と思って」

 何となく納得した橙夜は、澄香が座る毛布に靴を脱いで入ると、彼女の前に腰掛ける。

 ちょこっと澄香が身を引いた。

 橙夜は構わず手を伸ばす。

 服の上からでも分かる柔らかな感触、それを楽しむ。

「……ねえ」

 澄香は唇を尖らせる。

「どうして足利君……ううん、橙夜君はそれが好きなの? 胸」

 橙夜の手は澄香の服の首元から中に入り、直に彼女の乳に触れていた。

「男の子はみんな好きだよ。胸」

「それだけ?」

 何だか澄香は不服そうだ。

「もちろん、君自身も大好きだよっ」

 橙夜は澄香を抱き寄せると、唇に自分のそれを重ねる。

 彼女は抵抗しなかった。

 むしろ舌を絡めて積極的に口づけを味わう。

 我慢できなくなった橙夜は澄香を押し倒し、上から下まで全ての服をはぎ取った。

「蒲生さん」

「ダメ……」澄香が、吐息混じりにいやいやをする。

 その匂いを嗅ぎながら、橙夜は訊ねる。

「何がダメなの?」

「もう蒲生……じゃ、ダメ」

「分かったよ、澄香さん」

「あ、『さん』も……」

 だが澄香はもう何も口に出来なかった。

 愛の営みが始まったからだ。

 若い二人は互いの体の全てを味わい尽くし、何度も果てた。

 これが最近の橙夜と澄香の日課だった。


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