第65話

 ドワーフは感心したようだ。

 ゴリゴは自分の魔法信樹に当然思い入れがあるのだろう、しばらくぎりぎりと歯をならしていたが、ややあって決心したようだ。

「分かった、それで良い。背に腹は替えられん……じゃが、キュレーヴとか言う人間には容赦せんぞ」

「ええ……」ジュリエッタは深刻そうに小声を出す。

「それはあんたの自由よ」

 一応の話はつき、事態は収拾した。

 ダークドワーフのゴリゴは澄香が目覚めた後、治癒魔法で両手を取り戻し、何も言わずコボルドとこの地を去っていった。  

 イデムとガドムの仲は修復された……どころか、妙な友情が出来て彼等は『イデム兄弟』

と名乗り、義理の兄弟となった。

 問題も残る。

「コボルドどもに死の冬の分に蓄えていた家畜たちを台無しにされてしもうた。どうしたものか」

 深刻な問題であり、イデムもガドムも眉を曇らせる。

「あのー」と橙夜が恐る恐る訊ねる。

「この魔法の武器、売ったらダメなんですか?」

 ゴリゴのデスターだ。

「おお、その手があったか!」

 二人のドワーフの表情が明るくなる。

「魔法の武器は貴重じゃ、確かにこれ程の業物ならかなりの値になるだろう」

「おまえ、頭良いら」

 二人のドワーフに褒められ、照れる橙夜だが、ジュリエッタが深刻な表情をしているので笑みを引っ込める。

「でもわしらドワーフは街には入れんぞ」

 それなら俺が、とイデムに橙夜は答えようとした。

 だがそれより早く「あたしがセルナルの街に行くわ」とジュリエッタが宣言し、他の意見は聞かない風な感じで背を向ける。

「うん? ジュリエッタはどうしたポロ?」

 ポロットが疑問を口にするが、それは橙夜が聞きたい。

「ジュリちゃんはぁ、色々ぉ、考えることがぁ、あるのぉよぉ。今は黙っててぇあげてぇ」

 アイオーンが人差し指を空に向けて彼女を庇うから、橙夜も黙るしかなくなる。

「小屋の修理は簡単じゃ、しの冬の備えも心配ないだろう」

「うむ、そうじゃな、きょうらい」

 二人のドワーフは何度も頷くと、橙夜達を見回す。

「さて、お主等へ報酬を払わんとならんな」

「ああ、それについては」

 橙夜が手を挙げ、みんなが不思議そうな顔をしている間に、イデムに近づき打ち合わせをする。

「ううん? そんな物で良いのか?」

「はい、どうしてもそれが必要なんです」

 ドワーフは拍子抜けしたようだ。

 大金槌の代金の半分でも請求されるかと思っていたのか。

「なら簡単じゃ……明後日には持って行けるじゃろう。諸々な」

「そうですか、助かります」

 橙夜はドワーフ達に一例をして何か聞きたそうな仲間の元に戻った。

「何を頼んだのよ」

 ジュリエッタが繰り返し訊いてきたが、橙夜は、

「楽しみにしておいて」とだけしか答えなかった。


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