第64話

 イデムとガドムの戦斧が芸術的なまでに連携した。

 イデムの一撃がゴリゴの右腕を、ガデムの一撃が左腕を切り落とす。

「ぐぎゃぁぁぁぁ」

 ダークドワーフの絶叫が洞窟にこだました。

 両腕を失ったゴリゴは膝をその場に突く。

「はあはあ、勝った」

「はあはあ、かったら」

 次の瞬間イデムとガドムはひしっと抱き合った。

「お主のお陰じゃガドム」

「ちがうら、イデムの力ら」

 ドワーフ達は互いを湛えながら泣き出す。

「ううううう」

 戦闘力を完全に失ったダークドワーフは、憎しみに燃える目を上げた。

「何故じゃ? 何故わしを襲う?」

 は? と皆の頭の上にハテナマークが点滅する。

「何言ってんのよ、あんたがイデム達の鉱山を横取りしたからでしょ」

 ジュリエッタが責めると、血に染まっていくゴリゴは大きく首を振った。

「わしは、お前ら人間に、許可を貰ったのだ……ここを好きにして良いと」

「うぬ?」

 イデムが一瞬で泣きやんで振り返る。

「どういう意味じゃ?」

「え、それはここの領主から? マリューン辺境伯」

 ジュリエッタの声が少し震えている。

 もし領主からの許可があるのなら、不法はむしろ橙夜達なのだ。

「だれじゃそれは! わしはこの場所をキュレーヴとか名乗る人間の貴族から勝ったのじゃ」

「キュレーヴ! マイスナー家の? ……ええと、そいつは黒髪で瞳は緑で気障で長身の男?」

「そうじゃ! 気にいらん奴じゃったが、わしらダークドワーフにも鉱石は必要じゃ」

「どういうことら?」 

 ガドムはきょとんと丸い目をさらに丸くしている。

「証拠ならある……わしの鞄じゃ」

 ジュリエッタは慎重にゴリゴに近づくと下げている革の鞄を開いて手を入れる。

 羊皮紙が出てきた。

 真剣な、祈るような眼差しで彼女はそれを見つめる。

「本当にマイスナー家の正式の紋章とキュレーヴのサインだわ」

 何故か彼女は酷く狼狽えている。

「……あんた、騙されたのよ」

 しばらくの後、ジュリエッタはため息を吐いてゴリゴに説明する。

「ここら一帯の全てはマリューン家の物、マイスナー家は確かにラスタール家とも近い有力な家だけど、ここの洞窟の所有権はないわ」

「なんじゃとっ! ……くぅ、卑劣な人間め! わしらを騙して金品を奪うのか! 何がエルドリアの貴族じゃ! ただの盗人ではないかっ!」

 さあっとジュリエッタの顔色が青ざめる。

「と、とにかく」橙夜は慌てて間に入った。

「ええっと、ゴリゴさんだっけ? もう勝負は付いたからここから出て行ってくれないかな? 騙されたかどうかは本人に当たるべきでは?」 

「おお、そのつもりじゃ……じゃが……」

「蒲生さんが起きたらその腕を治すよ」

「ふざけるな! わしらダークドワーフは人間の情けになどたよらんわ!」

 面倒だなぁ、と思いながら橙夜は提案する。

「なら、その大金槌、デスターを俺達に売ってくれ。代金として両腕を治す」

「おい! 良いのか? こやつはまた襲ってくるかもしれんぞ」

 イデムの警告に、橙夜は肩をすくめる。

「だから最大の武器を貰うんだ」

「なるほどのう」

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