第63話

「今ポロっ!」

 ポロットに指摘されるまでもない。

「うおおおおお!」

 橙夜は吠え、ショートソードでケレイブ・ドルの顔面を貫いた。

 ポロットは抜け目なく、短剣で敵の脇腹を抉る。

「グ、グ、グググ」

 それが最後だった。

 ケレイブ・ドルは一度本当の石の塊になったかのように停止すると、すぐにぼろぼろと崩れて、最後には砂の山になった。

 はあはあ、と荒い呼吸を繰り返す橙夜達を残して。

「やった……」

 ジュリエッタがどこか呆然としたように呟き、橙夜はようやく自分達がケレイブ・ドルを倒したと理解し、すぐ振り返る。

 二人のドワーフがまだダークドワーフと戦っている。

 まるで夢幻のようだった。

 イデムとガドムが舞うように戦斧を閃かせ、ダークドワーフのゴリゴも呼吸を合わせて大金槌を叩き落とす。

 橙夜のようにおっかなびっくりの戦いではなく、まさに自分の武器に慣れ戦いに慣れた者だけが入れる場所だった。

「すごい……」

 橙夜はショートソードの先を地に下げた。

 自分の出番がないと、悟ったからだ。

「ええそうね」

 同じ考えだったらしいジュリエッタも肩にレイピアを担ぐ。

「でも……」ポロットだけが短剣を油断無く構えている。

「少しずつ押されているポロ。あのダークドワーフ強いポロ」

 指摘されてようやく気付く。

 確かにイデムとガドムは徐々に後退している。

 反対にゴリゴは一歩一歩足を踏みしめていた。

「あれは……武器の差ね、ダークドワーフの大金槌、かなりの物だわ」

 デスターとか呼ばれていた大金槌は凄まじい威力だ。

 狭い場所で、と思うが大金槌が触れた洞窟の壁や床は粉々の砂にまで還元されている。

『魔法の武器』とやらの脅威なのだろうが、あれではイデムとガドムも掠っただけで致命傷になりかねない。

「くっ」

 橙夜はショートソードを上げる。

 咄嗟に加勢をと思ったからだ。

「ダメよ」素早くジュリエッタに止められる。

「あんな嵐のような所にまだあんたは行けないわ……あたしもだけど、今はダークドワーフを二人が倒してくれるのを祈るしかない」

 ジュリエッタにしては弱気な発言だ。

 ただ正しい指摘ではある。

 じりどりと二人のドワーフは追いつめられている。

 デスターは魔力を惜しみなく発揮し、ただの鉄でしかないイデムとガデムの戦斧も刃が欠け始めた。

「くぅ」

 イデムが歯を食いしばる。

 彼も万全ではない。相当無理をしているはずだ。

 ……どうすれば……。

 橙夜は思わず周りを見回した。

 何か逆転を誘発する物はないか……後ろにいた。

「最後ぉの力ぁ」

 不意に頭を垂れていたアイオーンがばっと顔を上げ、指先が帯電する。

「ライトニングぅ・ボルトォォ!」

 雷の矢はゴリゴの肩に辺り、一瞬動きが止まった。

「今じゃあっ!」

「うおおおお!」

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