第46話

「ドワーフはね、何かを作る、特に鍛冶技術は人間では到底マネできない程なのよ。だから各種族が背を向け合った今でも、特別に領主達に仕事場を与えられている者達がいるの」

 わざわざジュリエッタが説明してくれる。

「じゃあ、どうしてあんな姿に?」

 橙夜が思い描くのは、ぼろぼろでドロドロの姿だ。

「ケレイブ・ドルじゃ」

「は?」

 首を捻る橙夜に、ジュリエッタは驚いた声を出した。

「え? ケレイブ・ドルってあの石のモンスター?」

「そうじゃ、あれがわしらが掘っている洞窟に現れたのじゃ……それにいまいましいコボルドどもも」

「ほえー、凄い! 見たい!」とのマーゴットの感想はスルーだ。

「わしは勿論戦った……が、何せケレイブ・ドルは厄介な相手でのう、しかもコボルドどもも沸いて逃げるしかなかったんじゃ」

 余程屈辱だったのか、イデムの顔が真っ赤になり、唇が震える。

「……だがその後をコボルドどもが追っかけてのう……ようやっとまいたらもう限界を超えてしまっていたんじゃ」

 橙夜は理解した。

 戦いに敗れ、逃げ続けてリリルの村にたどり着いた。

 だからあんなマネをしてしまったのだろう。

「わしはどうかしていたんじゃ! 人様の物を……今からでも遅くない、このそっ首叩き落としてくれ!」

「いやぁいやぁ、理由ぅが分かったからぁ、もういいわぁ」

 自分の斧を首に当てるイデムに、アイオーンが手を振る。

「とにかく分かったわ、で、これからどうするの?」

「無論、また戦う!」

 ジュリエッタの言葉にイデムは即答する。

「でもぉ、あんなにぃ、めたぁめたぁに負けたんでしよぉ」

「うぐ」

 イデムはしばし悩んでいるようだ。

 ややあって、ようやく存在に気付いたかのように、ジュリエッタ、アイオーン、ポロット、橙夜、澄香の順で見回す。

「……お主等、もしかして冒険者か?」

 嫌な予感に橙夜は惚けようとしたが、ジュリエッタがそれよりも先に薄い胸を張る。

 生で見て触った澄香の乳房は意外に大きかった。

「そうよ! あたし達は冒険者! 常に大冒険の中にいるわ」

 今一度イデムががばっと両膝を突いた。

「ならば、わしの手助けをしてくれないか? お前さん達を雇いたいんじゃ。無論タダとは言わぬ……見て分かるが、エルフのお嬢さんは魔法使いだし、黒髪のお嬢さんは癒やし手じゃろ? それにハーフリングのレンジャーに若き戦士、金髪の女バーバーリアン」

「誰がバーバーリアンよ!」

 ジュリエッタが腰のレイピアの柄を握るので、慌てたアイオーンとリノットが抑えた。

 ……そう言う所なんだよなあ……。

 橙夜の嘆きに構わず、ドワーフは床に頭を伏せた。

「ともかくこの面子ならもう負けん、どうかわしに力を貸してくれ! 頼む」

「うーん」

 ジュリエッタは腕を組み直して考えようとするが、今度は橙夜が先んじた。

「分かりました! お手伝いしましょう」

 イデムは涙に濡れた目を上げた。

「え、ちょっと……」

 意外な展開に、ジュリエッタが橙夜を小屋の隅に連れて行く。

「勝手に決めないでよ! リーダーはあたしよ」

「でもさ、可哀相だろ? あのイデムってドワーフ」

「あのねえ、あんたはこの世界のモンスターについて何も知らないでしょ? ケレイブ・ドルは意外に厄介なの」

「ジュリエッタ、俺はさ、今まで色んな人に助けられたからこの世界で生きて行けているんだ、と思っている。だから困っている人を見たら助けたい……もしかして、それが最も早くあの赤いエルフに近づく道かも知れない」

「心意気は認めるけど……さすがにお人好しすぎだし無茶じゃない?」

 珍しくあのジュリエッタが弱気だ。

「……それに、ここからドルケルの山に行くなら……コルギットを迂回すると考えると……ナサバ沼の近くを通る……あそこには……あれやこれやが……きゃううううう」

 両肩を抱いて身震いするジュリエッタに、橙夜は息を落とす。

「わかった、なら君は待っていてくれ……しかし残念だなあ……あのジュリエッタの剣の援護が無いのかぁ。ジュリエッタの剣はすごいのになぁ」

「当たり前よっ!」

 いきなり彼女は叫び、小屋の人々の注目が集まる。

「私の強さは知っての通りよ! 私抜きで冒険? そんなの無謀も良い所、任せなさい! 私の剣はいつもあんたを守るわ! うふふふ、腕が鳴るわ」

 何だかジュリエッタが分かってきた。

「さあみんな準備よ! 冒険者は冒険してこそだから! 困っている人を見捨てるなんて論外よ!」

 張り切るジュリエッタに死んだ目の橙夜が続いた。

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