第45話

 ポロットとリノットが獲ったウサギや鳥がどんどん消えていく。

 シチューの形になっていたが、それにしても異常な速度だ。

 泥だらけのドワーフは時々喉につっかえるのか、咳き込みながらしかし食べ物を口に放り込むのを辞めない。

 ポロット愕然。

「五日分……ポロ」

 橙夜は後で慰めようとポロットを見るが、それより厄介な仕事もあると気付く。

 ジュリエッタが不機嫌その物の顔で腕を組んでいた。

 後で額で床をこするしかない。

 何せリリルの村で芋泥棒として捕らわれるはずのドワーフを、交渉の末に彼女の家に運んだのは橙夜だ。

「どうしてそんな事を?」

 反対するジュリエッタに先程懇願したが、この先も頭を下げる必要がありそうだ。

 橙夜がドワーフを助けたのには理由がある。

 畑の中の戦闘だ。

 彼には分かった。

 ドワーフはこちらを傷つけないようにしていた。

 対して橙夜は本気だった。

 つまり、ドワーフは殺そうとしていた相手に手加減をした。

 故に何となく分かる。  

 このドワーフは悪い奴じゃないと。

 だから倒れて「メ……シ」と口にしたドワーフを村人の敵意の目がないジュリエッタの

家に運んだ。

 後は希望通り食事を出す。

 まさかここまで喰うとは……てか、遠慮とか無いのか?

「ふぅーうー、喰った喰った」

 ドワーフは空腹を見たし、正気に戻ったようだ。

 ちゃんとした言語を発した。

 次の瞬間椅子が引かれ、ドワーフはその場に這い蹲った。

「誰かは知らぬが済まなかった、人様のものを奪おうとは……しかも武器まで振り回し……言い訳をすると、わしはどうにかしておったんじゃ」

 まさに平身低頭。

 橙夜は自分の見立てが正しかった事に安堵する。

「腹が減って腹が減って見境いが無くなっていた。」

「それにぃしてもぉ、いきなりぃ、遅いかかってぇきたよねぇ」

 アイオーンもやや手厳しい。

「面目ない……わしを衛兵に突き出すならそうしてくれ、恨みはしない

「はあっ」ジュリエッタはしばし目をつぶるとため息を吐いた。

「そんな事しないわよ、一応人助けは良い行いだし、それより訳ぐらい教えて貰えるのかしら……ほら、もう良いからさっさと立つ」

 橙夜は密かに微笑む。

 ジュリエッタは勇猛な戦士だがちゃんと慈悲の心を持っている。

 だから橙夜も彼女を……気付いた。

 澄香がじっと彼を見つめていた。

 彼は木の天井を見上げて誤魔化した。

「ホントにドワーフ?」

 成り行きを口に手を当てて見ていたマーゴットが恐る恐る訊ねる。

 ドワーフはゆつくりと立ち上がりながら頷く。

「うむ、わしはドワーフのイデムじゃ」  

 イデムと名乗ったドワーフは汚れてぱさぱさになった髭をしごく。

「近くの山で鉱石を取って鍛冶仕事をしていたんじゃ」

「ああ、ドルケルの山ね。確かにあそこはドワーフに任せていたわ」

 ジュリエッタが頷く。

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