第47話
ジュリエッタは張り切るが、出発は次の日になった。
夜間の遠出が憚られたからだ。
夜は怪物達も強くなるし、動物も危険だと言う。
昼に目を盗んで澄香と逢瀬を重ねていた橙夜は安堵したが、ふと疑問が浮かぶ。
……蒲生さん、まさか知っていた……計算していた……そんな分けないか。
とにかくジュリエッタの小屋で一晩泊まることとなったイデムは、橙夜とポロットの部屋で寝た。
だから橙夜とポロットは殆ど寝ていない。
イデムの鼾が凄かった。
次の日、目がちかちかするほどの晴天だったが、橙夜とポロットはずっしりとした疲労の中にいた。
「うんっ! 出発よ!」
一悶着。
「いつもいつもお姉ちゃんばかりずるいずるいずるいっ!」
「何でリノットもお留守番ばかりリノ? レンジャーの腕なら兄さんと変わらないリノ!」
「わんわんわんうー」
いつも留守番組のマーゴット、リノット、さらにタロまで反抗してきた。
仕方ない。
マーゴットを戦いに連れて行く訳にはいかず、彼女の護衛としてタロがいる。
シャドードッグだけでは手が足りないかも知れないから、もう一人起き必要もあった。「リノットはきっとトーヤより強いリノ!」
さらっと橙夜の矜持を歯傷つけるリノットだが、アイオーンと澄香の説得により、何とか矛を収めた。
いつものジュリエッタの「うるさーい!」はもう通じなかった。
「全く、どうしてマーゴットははあんなに……」
経緯故にジュリエッタは機嫌が悪い。ぶつぶつと妹の悪口を呟き続けている。
敢えて無視してイデムの背後に続くと、森の木々の間の歩きにくいまではない草地を進んだ。
眠気が吹き飛ぶ。
気持ちの良いほど青い空と、元の世界では嗅げない濃密な草木の匂い、マイナスイオンの塊を摂取しているような綺麗な空気が橙夜を包み、自然と肉体が軽くなる。
「良いところだね」
弾んだ声にイデムの口元も綻ぶ。
「じゃろ? 本来は魔物なんぞ出ない平和な道じゃ」
「うん? ならなんで出るんですか?」
イデムの眉が曇る。
「コルギットのエルフじゃ、あ奴らはここらの魔物狩りをしていたのじゃが、最近何か動きがおかしいんじゃ」
「コルギット?」
ジュリエッタは耳ざとい。
「あの地で何か起こっているの?」
「わしには分からんよ、ただ最近エルフどもが何か殺気立っておる」
すぐに証明された。
そこから三十分程進んだ場所で、革鎧に身を包んだエルフ達が森から飛び出してきたのだ。
「貴様達、何をしている!」
「え? 何を?」
困惑する橙夜だが、イデムは慣れた物だ。
「ただわしの山に帰る所じゃ」
「ならなぜ人間がいる?」
橙夜はドワーフの言葉に納得した。
確かにエルフ達は誰何にしては激しく問いつめていた。
「何よ、私達は冒険者よ、冒険して何が悪いの? このドワーフの手助けよ」
こんな時には頼りになるジュリエッタが返すと、エルフ達の目は険しくなった。
「何をするつもりだ? ドワーフの手を貸す? 人間が?」
頼りにならなかった。
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