第41話

 二人は当然のように王の椅子の上で抱き合い、睦み始めた。

「……お兄、様……バロー、ドが」

「インチキ錬金術師などどうでもよかろう」

 クレイヴは錬金術師よりもエリザベトの乳に興味があるようだ。

「あれでまあまあ役に立った。ちょうどいい頃合いさ」

 エリザベトの呼吸は止まる。それ程強烈な口づけだった。

 わき上がる歓喜の中で、エリザベトが思うのは『あの女』……ソフィアの妹たちだ。

 親兄弟を目の前で処刑された哀れな姉妹。

 くすりっ、とエリザベトは笑う。

 思い出すのは『あの女』の特徴を色濃く残す妹だ。

 ジュリエッタ……とか言った。

 あのガキどもも殺してもよかったが、それでは気が済まなかった。

 だからさらに苦しむように問うた。

「お前は娼婦か冒険者になりなさい」

 十歳にも満たない子供には絶望的な二択だ。

 今頃、怪物に食われたか、やはり娼婦に身を落としたか。

 くすり、と今一度エリザベトは嗤った。

 夫は違う男の胸で、独の花は咲く。

 ……どちらにしても今お前は不幸でしょ? ジュリエッタ。


「ああもうっ!」

 ジュリエッタは苛立って声を張り上げる。

「ちゃんと並びなさいよ、さっきから言っているでしょ!」

 だが貧しい服装の農民たちは、誰よりも先に進もうと彼女を目を盗んで列をごまかそうとしている。

「大丈夫ポロ、みんなの話は絶対聞くポロ」

 彼らが目指す先にいるポロットは、ハーフリングらしく短い手を頭上で振り回す。

「ううう、世界を股に掛けて活躍する予定で、世の謎を解き明かす可能性を秘めた、冒険者のはずのあたしが列の管理……不幸だわ」

 ジュリエッタがこぼすと、また列に割り込みが出て、彼女を怒鳴らせた。

 錬金術師バロードの死は各地の村々を凍り付かせた。

 医療問題だ。

 元々、バロー度の水銀薬と瀉血は医学として間違っている。

 だがそれでも魔法とは縁のない貧しい人々にとって、偽物でも心の支えにはなっていた。 突如それが外れる。

 混乱するリリルの村で、消沈する村人を見ていられなくなったポロットが薬草を売り出した。 

 結果、ジュリエッタは列の管理の仕事に回されている。

 当然、当初はハーフリングの薬などだれも見向きもしなかった。

 だが数日経ったある日、発熱でどうしようもなくなった村人がないよりは、と買った。

 滅茶苦茶効いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る