第42話
以来、ポロットの前の人々は増え、あっという間に大行列だ。
ポロットの薬草は確かに効き、さらには彼の傍らに癒しの魔法を使えるスミカがいるからだ。
病だけではなく、ある程度深い怪我も治療してもらえる。
リリルの村以外からも話を聞きつけた者達がやってくるのは当然だ。
そうなるとジュリエッタは密かに緊張した。
村から外に出るのは元来禁止なのだ。
農民達は、ほぼ一生自分の村から出られない。それが領民の決まりだ。
杞憂に終わりそうだ。
恐らくだが、今の領主であるマリューン伯は田舎の村に等興味ないのだろう。
ジュリエッタの予想は外れていた。
後に思い知らされるが、今の彼女は気楽な予測に飛びついていた。
ちなみにスミカの魔法はさすがに聖職者の技なので無料だが、ポロットの薬草は皆半銅貨取っている。
トウヤから異論が出た。
「かわいそうだから無料にしようよ」
ジュリエッタは首を振った。
「それは逆効果なのよ。ただで病が治せるのならみんな油断して備えを忘れる。だけどお金がかかるなら病気にならないように努力するわ」
半銅貨は街では何も買えない少額だ。だがほぼ自給自足で物々交換の田舎の村では少々痛い。
その『少々の痛み』が人々のために必要だ。
トウヤは彼女の説明に納得して、今は同じく列を見ている。
「疲れたぁ? ジュリちゃん」
リノットと薬草調達係に任命されたアイオーンがいつの間にか帰って来ていた。リノットの姿がないので、多分この変わり者エルフは誤魔化して逃げたのだろう。
「……そうね、一日中突っ立っているのは堪えるわ」
うふふふ、と意味ありげにアイオーンは笑う。
「でもぉ、うれしいんでしょぉ。村の人たちの役に立ってぇ」
「え、何で、疲れてもううんざりよ」
ジュリエットが反論すると、アイオーンがジュリエッタの頬をつつく。
「頬がぁ緩んでいるわよぉ」
ジュリエッタは苦心して表情を引き締めた。
元は父の領地だった土地の人々の幸福がうれしくないはずがない。仲間も増えたし本心で『不幸』と思っているわけがない……が、こうして見透かされるのは腹が立つ。
唇を尖らせふいっとアイオーンから視線を外したジュリエッタは、薬草を待つ人々の期待に満ちた顔を見つめた。
温かい気持ちが沸き上がり、思わず目を細める。
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