第36話
川中亮平が目を開けると、そこには炎のような赤い髪の女が立っていた。
「……全く、今回は散々だ」
女は悔しそうに吐き捨て、いつの間にか彼の指にある赤い宝石の指輪を指す。
「言葉は分かるな? 本当は他の二人で何となく無意味だと知ったが、折角だ、お前も試してやる。かつて異世界人に施された封印を解く力が備わっているか」
「な!」亮平は驚愕する。
いつの間にか女の横に、見たこともない怪物が立っていた。
猪か豚のような顔に、頑丈そうな体躯。何より手に持っている槍が化け物の目的を想起させる。
「こいつを何とかしてみろ」
妙に顔かたちの整った赤髪女が平坦に命令し、怪物は槍を持ち替えた。
逃げる、その選択肢しかない。
亮平は駆けた。森の中をただひたすら。怪物の叫び声が背後からまだ聞こえている。
……何だこれは? どうしたんだ俺は?
必死で脳を巡らせた。
答えは出ない。
彼は高校の校舎裏で一目惚れした少女に告白していたはずだ。
近年では滅多にいないレベルの女の子だ。しかもまだ魅力は向上途中で、存在を誰も知らない。
仲良くなったのは彼の幼馴染みの方が早いが、恋とは速度が命の戦いだ。
……わるいな橙夜。
亮平は幼馴染みに諦めさせようと、告白の瞬間を見せつけた。
──だが今、彼はどこかの山奥の森で怪物に襲われている。
「夢、夢なのか?」
確かに足元の感覚がなかった。夢だからではない、考えている内に崖にさしかかっていただけだ。
「うわぁぁぁぁ」亮平は土と岩の急勾配を転がり落ちた。
体に温もりを感じる。少し硬いベッドと布団の感触があった。
……何だ、やっぱり夢か。
亮平は目を開いた。
心配そうに覗いている少女と目が合う。
「え!」亮平が驚くと、そばかすの似合う少女は微笑む。
「あ、大丈夫でしたか? あなたは崖の下に倒れていたんです。きっと落ちたのね、運がよかった。あそこは岩ばかりだから……どこか痛みますか?」
亮平は呆然とした。
そばかすと赤毛の可愛らしい少女の容姿はどうみてもアジア人のそれではない。青い目は大きく、鼻が高い。
「ああ、私はデレッダ。ここはメルニの村です」
デレッダは太陽のようにはにかむと、木のお盆に食べ物らしき液体が入った木のお椀を乗せて彼に差し出す。
「一日は寝てたのよ。お腹空いているでしょ?」
「……ああ、ありがとう」
確かに腹は減っていた。だから亮平はいろんな疑問符を無視してスープらしき液体を木製スプーンで掬う。
「うっ」不味かった。異様に味が薄いし香辛料なのか青臭さも鼻につく。
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