第29話

「橙夜君!」

 澄香が悲鳴を上げ近寄ろうとするから、彼は手を出して制する。

「はっ」 

 無様に蹲る橙夜を亮平は嗤う。

「実力もねーのにイキるからだよ。てか、死んでねーのかよ」

 危うかった。鎖帷子は刃には有用だが剣は鉄の棒だ。打撃の威力を軽減はしない。

 はあはあ、と荒い息を吐きながら橙夜は立ち上がる。

「おいおい」うんざりしたように橙夜は手を広げる。

「まだ分かんねーの? お前じゃ俺の勝てねーて、命ある内にうせな……女どもを置いてな」

 亮平の目に好色な色が浮かぶ。

 澄香以外の少女達の美貌に彼も気付いたのだろう。

「これは俺のハーレムストーリーだ。お前は無様に負けるモブキャラさ」

 亮平は無造作にロングソードを持ち上げ、橙夜の肩に叩き降ろした。

「があぁっ」

 肩に直撃を受けた橙夜はまた床に沈む。

「つまんねーの」

 わざとらしいため息が亮平の口から漏れる。

「もう時間の無駄だな。外の連中呼んでこようか、こいつの相手しているのも飽きた」

「……逃げるのか亮平?」

「あ?」

 橙夜の言葉に亮平の笑みは固まる。

「てめえ、何ほざいているんだよ? どー見てもお前の惨敗だろうが」

「まだ僕は負けていない」

「はん!」

 亮平の目が細められる。

「あー、わーったよ。ここでぶち殺してやる……いや、死にかけにして俺と澄香がヤるのを見ながら死ね! NTR展開も悪くない。このインキャザコ野郎がぁぁっっ」 

 亮平はロングソードを再び大上段に上げる。

 橙夜は退く。

 それを怯懦と見たのか、亮平は剣を振った。

「じゃあなっ! モブキャラッッ!」

 橙夜は横に回転し、剣をかいくぐった。

 ぎゃりん、と床に敷かれた石から火花が散り亮平のロングソードが跳ね上がった。

 これが、待っていた瞬間だ。

 橙夜は残る全ての力を奮い、亮平の側面、盾のある方へと回り込んだ。

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