第28話

 同時にロングソードが振られた。

 橙夜は反射的に後ろに飛び退き、避けた。だが激しい擦過の感触が腕に残った。

 かわしきれなかったからだ。

 橙夜は改めて鎖帷子の着用が正解だと思い知った。

 刃の武器の最大の敵は鎖帷子だ。ただ……。

 がしゃん、と橙夜の横にあった木の戸棚が壊れ、ガラス瓶らが落ちる。

 橙夜より大柄な亮平の一撃は重く強い。

「おりゃあ!」

 ロングソードは跳ねるように返ってくる。

 橙夜は一歩また退く。

 がちり、と石壁から火花が散った。

「へっ」亮平は唇を歪める。

「どうしたよ? 橙夜、まるで逃げてばかりだな? ええ? 分かっているんだろ、俺には勝てねーと」 

 橙夜は答えない。

 ただ亮平の兜のバイザーから覗く目をにらみ返す。

 ち、と舌打ちが漏れ、亮平がロングソードはを縦に振り下ろした。

 ……今だ!

 ロングソードが木の床を抉った瞬間、橙夜は亮平へと大きく踏み込みショートソードを振る。

 かきーん、と派手な音がしてショートソードは弾かれた。

 亮平の着用している板金鎧だ。

「あははは、ばーか」

 亮平は嘲った。

「そんなナマクラが通用する訳ねーだろ」

 橙夜は強く唇を噛む。

 亮平は余裕綽々の体だが、仕方ない。確かに現状の橙夜にとって彼は遙か高みにいる。

「ふん、ザコが!」

 吐き捨てた亮平の攻勢が始まった。

 ロングソードを持ち上げ、振り、なぎ、切り上げる。

 鎖帷子の上着だけしか防具のない橙夜が傷ついていく。

 頬から、腰から、足から、血が吹き出し、舞った。

 は、と背後の仲間達の息を呑む音が聞こえる。

 趨勢は誰から見ても明らかだ。

 圧倒的に亮平が優勢である。否、橙夜はもう追いつめられていた。

「おらおらおら」勢いに乗った亮平の剣が暴風のように再び橙夜に襲いかかる。

 橙夜は回避に徹し、致命の一撃を避けようとした。

 だが、だが二度目は簡単にはいかなかった。

 一度目で学習した亮平がフェイントを入れたのだ。

 振り下ろす、に見えた剣を途中で止め、そのまま横に振り抜く。

「ぐふぅっ」

 見事に橙夜の腹部を捉えていた。

 うええ、と橙夜は少し前に食べたウサギと対面することとなった。

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