第24話

「う」と扉を開いた橙夜は眩しさにしばらく目を細めた。

 貴族の屋敷ともあり、イエローローズ舘は豪華だ。足元には廊下にもかかわらずカーペットが敷かれ、こんな誰も来ない場所なのに壁に燭台があった。

 勿論、灯された蝋燭が何本も立ち、それらは獣脂の臭い安物ではなく蜜蝋の高級品らしい。

「あとは運だ」

 橙夜達は足元に集中し、音を立てないように歩いた。

 すぐに立ち止まる。

 こちらへ近づく足音を耳が拾ったのだ。

 どうする、と振り向くとアイオーンが一歩進み出て目をつぶる。

 足音が大きくなる。

 橙夜達のいる廊下の至近まで接近した来た。

「うう」とうめきが上がり、どしゃっと何かが倒れた。

「スリープ」とアイオーンが目を開いた。

 衛兵らしき男は寝ていた。よほどぐっすり寝ているのか鼾もかかない。ジュリエッタは素早く男をロープで後ろ手に縛り、目に布を被せ口にも布を噛ませる。

「これなら敵が何人いようと大丈夫だ」

 だがアイオーンは橙夜にかぶりを振る。

「だめぇ、今の私の精神力ではぁ、あと三回がぁ限度ぉ」

 思い出す。魔法には集中力と精神力が必要なのだ。

「なら……」橙夜は緊張した。

 もう殆ど兵とは会わない方がいい。何せ、アイオーンにはあのダークエルフと戦って貰わなければならない。

「大丈夫ぅ」

 彼女は広くなったローブの袖から生き物を取り出した。使い魔のネズミだ。

「この子ならぁ、目立たずぅ、探索できるぅ」

 ネズミ使い魔はアイオーンの手から離れると、凄い勢いで廊下の先へ消えていった。  ジュリエッタが目を逸らし細かく揺れている。

 ……ネズミにも弱いのか。

 何だかんだ彼女は、貴族の娘の片鱗を残していた。

 ただのポンコツ説もあるが。

 アイオーンのネズミはすぐに目的を達成した。

 ちゅちゅ、と帰ってくる。

「分かったわぁ」アイオーンが使い魔の頭を撫でながら皆に伝える。

「どうやらぁ、地下にぃ、バロードらしき人がいるぅ」

 安心する。これで兵をかいくぐって上階まで上がる必要はなくなった。バロードに関しては。

「亮平は?」

「それはぁ、わからなぃ」

 が、兎も角まずはバロードだ。

 アイオーンが先頭になり、使い魔と共有した記憶を頼りに進んでいく。

 途中、橙夜は肝を冷やす。

 窓を見つけて覗いてみると、外に大勢の衛兵がいた。

 彼等はかがり火を焚いて、手に手に武器を持って侵入者の壁となっている。

 隠し通路がなければ、この計画はまず成り立たなかったはずだ。

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