第25話

 アイオーンが再び瞼を落とし、神経を集中している。

 気配を感じたらしい。

 それは過たず、どしゃと誰かがまた倒れ、ジュリエッタに拘束される。

「あと二回ぃ」

 アイオーンは吐息し、橙夜の背骨は痺れる。

 ……このまま進んでいいのか? あるいは撤退も視野に入れるべきじゃ。

 仲間を思う。

 彼の我が儘に付き合ってくれた大切な人達。もし捕まったらどんな目に遭うか分からない。特に殆どが女の子だ。失敗して囚われた時、彼女らは口に出来ないような過酷な運命に弄ばれるだろう。

「まってぇ」アイオーンがこで皆を止める。珍しく緊張しているようだ。

「あれぇ」

 彼女が指し示す先に二人の衛兵が立っている。他の見回り兵と違って鎧を着て槍を構えていた。

「あの下は食料庫だったけど……」怪訝そうなジュリエッタに、

「今は違うんだ」と橙夜は答える。

 確信めいた何かがあった。バロードは近い。

 ……だけど……。

 ここでスリープを使ってしまうと、アイオーンはその位階にある魔法を一度しか使えない。

 目を強くつぶり、橙夜は決断した。

「アイオーン、ジュリエッタ、澄香さん、ありがとう。でも君達はここから帰ってくれ。この先は僕が決着をつける」

 誰も動かなかった。

「はあ……本当にバカ」ジュリエッタはこめかみを押さえる。

「それであたし等を庇ってくれているつもりなんだろうけど、無意味だから」

「そうよ、橙夜君だけを行かせないわ」

「大丈夫ぅ、ダメだったらぁ、みんなでぇエルフの里にぃ、逃げましょう」   

 三人の少女は三様に拒否した。

「でも」

「うるさぁい」アイオーンはもう精神集中と魔法の詠唱に入っていた。

 がしゃり、と鎧の音を立て、槍の衛兵二人が眠る。

 橙夜は肝を冷やす。今の音は大丈夫だったのか?

 だが屋敷の変化はなく、彼は安堵した。

 その間に二人はジュリエッタ達に手際よく縛り上げられている。

 ジュリエッタは地下へ続く階段を覗いていた。

「OK、もう見張りはいないわ」

 一行が石の階段を下りると、鉄の扉に行き当たった。

「こんなのあたしがいたこれは無かったのに」

 ジュリエッタが目を丸くしている間に、どこから得た術なのか再び簡単にアイオーンが針金一本で解錠する。

 橙夜はそっと鉄扉を開き、中を確認する。

 一人の男が大きな鉄鍋に向かっていた。どんな男か分からない。何せ顔には革のマスク、手には皮の手袋、体はやはり革の前掛けで覆っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る