第21話
「バロードはイエローローズ館に住んでいるそうよ」
ジュリエッタはセルナルの街で情報も仕入れ、亮平とバロード、二人がいると思われる場所を探し出していた。
そうか、と橙夜は自分の行動が何か知った。
……僕等は暗殺しなければならないんだ。
バロードは怪しい錬金術師ではなく医学界の重鎮であり、王家にも認められた医師で、亮平は新たな英雄騎士だ。
正面から襲いかかれば大問題になる。それこそ国家に橙夜達は処断される。
だとすれば考えられる選択肢は一つ。
誰も知らない内に殺害する。
倫理など、もう知らない。何が正しいのか、もう分からない。
ただ、川中亮平と錬金術師バロードは悪だ。
実は橙夜自身否定していたことだが、時には力で物事を正さなければならないようだ。「イエローローズ舘? セルナルの? ほえー」
マーゴットは感心して、所々跳ねた赤茶色の髪をいじる。
「すっごい偶然ねっ!」
ジュリエッタはマーゴットに目を細めながらも「そうね」と認めた。
彼女は当初、この計画をマーゴットの知らない所で決行しようとしていた。橙夜も同感だ。
暗殺とは不名誉な行為、まだ一一歳の女の子を巻き込みたくない。
が、マーゴットはポロットらの失言で、あっさりと看破して自ら入って来た。
「仲間外れは酷い!」と。
ジュリエッタとの大げんか。だが結局マーゴットも会議『だけ』には加わる。
そもそも計画は見抜かれたのだ。どうしようもない。
「偶然? どういう事です?」
「それはねぇ、マスミちゃん。イエローローズ舘はぁ、昔ぃ、ボーダー家のぉ所有していた屋敷のぉ、一つなのぉ」
アイオーンが澄香に説明している間、ジュリエッタはどこから持ってきたのか地図を広げる。
「これがイエローローズ舘よ、どうやら運は私達の味方ね」
ジュリエッタが地図に置いた指を滑らせる。
「ここよ」
「は?」橙夜には訳が分からない。彼女が指したのは、セルナルの街の地図の外、テーブルの何もない場所だ。
「貴族の館には、もしもの時のために外に脱出できる秘密の通路があるの……バロードがあたしが知り尽くしているイエローローズ舘にいるのは、もしかして運命かもね」
ジュリエッタはまんざら冗談でもないようだ。
「つまり、潜入は意外と容易?」
「そうねトウヤ、敵が隠し通路について知らないと仮定するとね」
「で、隠し通路はどこに出る?」
「イエローローズの館の暖炉の一つ、古くなって使えなくなった、となっている場所よ……どうする?」
ジュリエッタの瞳が揺れる。彼女は万が一を心配しているようだ。
隠し通路が敵に知られていた場合。
「バロードは王家に認められたらしいけど、ここら辺の領主はどうなの?」
それは前領主の娘たるジュリエッタには辛い質問だろう。だから敢えて自然に真正面から聞いた。
「マリューン家は古風な家柄で、本来は西に領地があったんだけど、ボーダー家の没落によりここら一帯も手に入れたの。確かマリューン伯はそれほど錬金術を好んでいなかったと思うけど」
ジュリエッタは何でもないように答える。
「なら、きっと大丈夫だ」
「え? どうして?」
橙夜は皆ににやりと笑う。
「錬金術師……そんな者、普通の人が信用するかい? 多分、そのマリューン伯はわざと抜け道がある屋敷に住まわせているのさ。目的は僕等と同じ、王家何か関係なく、怪しいならいつでも処分できるように」
「確かに」とジュリエッタは大きく頷いた。
「マリューン伯は抜け目のない人だったわ」
「決まりだね」橙夜は蝋燭の周りの仲間、家族達を見回す。
「マーゴットとポロット、リノットはタロと留守番してくれ。もしもの時は惚けて欲しい、この計画なんて知らないと」
「えー!」マーゴットは抗議に椅子から立ったが、みんなの視線を一身に受けて黙る。
「気を付けるポロ……後は任せるポロ」
「待っているリノ……何とか誤魔化すリノ」
ハーフリングの兄妹はマーゴットより話が分かり、失敗した時にマーゴットだけはせめて守る方法だと理解してくれた、
「クーン」とタロが不本意だとばかり後ろ足で立ち橙夜に寄りかかるから、屈む。
「タロ、君はマーゴットの護衛だ、任せられるかい?」
「ワンっ」タロは任せてくれとばかり元気に吠えた。
「で、結構はいつ?」
橙夜はジュリエッタの真剣な眼差しを見返した。
「すぐに、明日の夜だ」
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