第20話
橙夜達はもう何も出来ないリリルの村から小屋に帰り、活動を開始した。
目的は川中亮平を殺害し、錬金術師バロードにも報いを与える。
「まず」ジュリエッタとの剣の訓練は、より本格的になる。
「あなたはあいつの装備に対してショートソードの使い方を間違えている」
橙夜は太陽を照り返す鋼の刀身を見つめる。
何かを殺す。その為にだけ産まれた道具。
今更だが、彼の背中に汗が滑る。
橙夜はジュリエッタからショートソードの効果的な使い方を習い、その夜から剣を磨いて研いだ。
そう、殺すための道具をより殺せるように手入れしなければならない。
「トウヤ、いい?」
研鑽の日々、ジュリエッタに密かに呼ばれる。
「これからセルナルの街に向かうわ……あなたは見なければならない。一応、フードで顔を隠して。それからマーゴットに知られると面倒だから、今回は私と二人だけで」
「え?」
橙夜は意味が分からなかったが、街に着いて得心した。
セルナルの街はお祭り状態だった。
人々はみな家を出て、石畳が敷かれた大通りに集まっている。
大通りの中心を歩く騎士達に歓声を送っているのだ。
新たに騎士叙勲された川中亮平に。
「これは?」
橙夜は衝撃を受けた。
亮平が行ったのはどう控えめに見ても虐殺と略奪だ。なのに今頬を紅潮させ彼等の前を通る亮平はぴかぴかの鎧に身を包んだ英雄その物だった。
「よく訊いてトウヤ」
ジュリエッタは色んな感情を隠し無表情だ。
「騎士の略奪は当たり前なの。むしろそれをしない騎士は主君から叱られる。どうやらリョウヘイはリルルの村以外でも同じようなことをして、バロードに認められ、正式にこの国の騎士になるようね」
「そんな馬鹿な! 犯罪を犯した者が英雄? 騎士? そんな滅茶苦茶な話しが……」
「しっ」目深にフードを被ったジュリエッタに制される。
「私達は今危険な場所にいるのよ、見つかったお仕舞い」
橙夜は口を閉ざした。
「うぉぉ! 新たなる騎士! 勇敢なる異世界人リョウヘイ!」
「きゃー、リョウヘイさまぁぁー」
男達の歓呼の叫び、何も知らない娘達の黄色い声の中、亮平は胸を張り自信に満ちた微笑を浮かべていた。
澄ました風だが橙夜には分かった。亮平は今得意の絶頂にいる。
手綱さばきこそまだ拙いが、彼は全身で己を誇っていた。
亮平は軽く片手をあげ、民衆に答える。
人々は沸いた。街が揺れるのではないかと錯覚するほどの声が張り上げられる。
遠い。
橙夜は思った。
幼馴染みはあまりにも遠い場所に行ってしまった。
あまりにも大きな罪を犯して。
紙吹雪やら花束を投げられる馬上の亮平を無言で見つめる。
浮かぶのは後悔だった。
最初に戦った時、亮平を殺すべきだった。
リルルの村や、他の人々が受けた苦痛と恥辱は全て橙夜の責でもあった。
このままでは亮平はこれからも罪を何とも思わず、笑いながら犯し続けるだろう。
──亮平、僕は君を殺す。
橙夜は一人今一度決意した。
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