第17話
二日、平和な日が続いた。
変わらずテオが剣の訓練に訪れ、澄香はほぼ回復し、ジュリエッタとマーゴットは喧嘩をする。
橙夜は澄香が見出した温もりを改めて感じた。
……確かに僕等は家族みたいだな。
だが三日目、テオは来なかった。その次の日も。
胸の中の嵐を感じた橙夜は、リリルの村へこっそり行ってみようと考えたが、それはすでにジュリエッタによって行われていた。
「みんな」彼女は一寸の隙もない真剣な眼差しで、扉の前に立っていた。
「ちょっと来て」
マーゴットはぶーぶー文句を垂れたが、彼女とタロ以外全員がジュリエッタの背に続いた。
目指す場所はリリルの村のようだ。
「バロードが二日前に来たらしいの」
皆は勿論色んな質問があったが、彼女は背中越しにそう答えただけだ。
リリルの村への道はかつてエヴリンが紹介してくれた御料林官を避ける裏道だが、もう二度目だから誰も苦労しなかった。
否、ジュリエッタに漂う悲壮感が、誰をもの疲労を忘れたさせた。
村が見えてきた。
……あれ? リリルの村って出入り禁止じゃ?
ジュリエッタが構わず進むので、橙夜はこっそり聞いた。
が、彼女は氷像のように無表情で答えない。理由はすぐに分かった。
村は酷く荒れていた。
刈り取り前だった大麦の大半は無くなり、幾つかの家は壊され、中には燃やされた跡もある。村人達は力無く座り込み、橙夜達にも呆然とした視線を向けるだけで咎めなかった。
「こ、これは?」
「バロードよ」ジュリエッタは唇を引き締めているが、泣きそうだ。
「バロードが治療代とか称して、村を略奪したの……正確にはバロードの部下のリョウヘイが」
「そ……んな」橙夜は破壊された村で立ちすくんだ。
そんな酷い事があるだろうか? ここまでの非道が許されるのか?
橙夜は自然とエヴリンの姿を探した。だが村のどこにもいない。
「……ああ、あんた達、また来たのか?」
数日前、橙夜達を追い出した村人が彼達に声をかける。魂を抜かれたようなふわふわした口調で灰色の目を地面に向けていた。
「エヴリンは? どこです?」
「エヴリン?」村人はしばらく理解できず、ぽかんと口を開き橙夜を見つめ返していた。
「……ああ、エヴリンか、墓場だ。そこで祈っている」
橙夜の心臓は鉛を注入されたように、冷えて重たくなった。
回れ右をして帰りたい。小屋のベッドで温かくして寝たい。
橙夜は必死に己を克己すると、村人が埋葬される墓場へと向かった。
エヴリンはいた。
新しい地母神の象徴をかたどった木の墓標の前に跪いている。
橙夜はその華奢な背中を見て喉に何かが詰まった。だからただ見つめるだけだ。
「どうしたの? エヴリン」澄香はやはり強い。こんな状況で声をかけたのだ。
彼女は振り向き、橙夜は嫌な予感が的中したと悟った。
エヴリンは死人のようだった。
肌は青白く、目元には悲壮な隈が出来、頬は乾かない涙で荒れている。
「母のです……それから向こうのはテオの」
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