第15話

「やあ、ぼくりょうへい、なかよくしよう」

「橙夜、ゲームしようぜ」

「また一緒のクラスだな、よかったぜ」

「部活決めたか橙夜?」

「同じ高校なんてすげーな」

 色々な声がこだます……そして最後に、

「てめえら、覚えてろよ……」剥き出しの憎しみと共に発せられた台詞。

 ……どうして亮平は……あの赤い髪のエルフは何を……どうやって生きてきたのか……。

 亮平を思うと橙夜の胸に嵐が生まれる。

 ……僕はどうすればいいんだ?

「……トウヤ君てばぁ」

 はっと彼は頭を上げる。いつの間にか目の前にエルフのアイオーンが立っていた。どうやら何度か話しかけていたようだ。

「ごめん、何?」

「スミカちゃんがぁ、よんでるぅ」

 橙夜は唇を閉じると、居間と寝室を分ける天蓋の中に入る。

 澄香はすこしぼんやりした目つきだが、顔色もさほど悪くなく、橙夜は安堵した。

「ごめんね……」澄香はいきなり謝る。

「何で謝るんだい?」

「何だか迷惑かけちゃった……女の子って不便よね」

「そんな事ないよ、澄香ちゃん。君は十分役に立っているよ。むしろ僕が能なしなんだ」「うーん」と澄香の眉根が寄る。

「まず『ちゃん』はいいかな、それから橙夜君は能なしじゃないよ」

 橙夜は真っ赤になる。

「でも、亮平に適わなかったし、いつもみんなに助けられているし」

 ふるふると澄香は枕の上で首を振る。

「何言ってんの? みんなを助けているのは橙夜君だよ」

「……僕も『君』はいいや……澄香……さん」

「『さん』なら橙夜君のままにしますー。よわよわなんだから……考えてみてよ、この世界に来てから」

 澄香は掛け布団から手を出し、何本か指を立てる。

「まず私を助けてくれた、次に噛まれながらタロを助けた、ゴブリンだっけ? を殺しながらジュリエッタを、ポロットを、ジュリエッタに殴られながらマーゴットを、そしてエヴリンさんを助けようとした……橙夜君はずっと誰かを助けているのよ」

「だけど」橙夜は歯を食いしばる。

「亮平君のことはあなたのせいじゃない。彼はどうであれ自分でああなってしまったの……もしかしてずっとそうだったのかもしれないけど」

「亮平は……いい奴だったんだ」

 くすり、と澄香が笑みを漏らす。

「ほら、今だってあんな酷いことをした亮平君を庇っている……橙夜君はね、優しいんだよ、誰よりも」

 あんまり慰めにならなかった。この力が至上とされる世界で『優しさ』に意味があるのか。

「優しさは大事だよ」澄香は素早く彼の心を読んだ。

「そのお陰でみんな家族みたいになったじゃない。ジュリエッタとアイオーンとマーゴットちゃんとポロットとリノットとタロ……そして私と橙夜君……私も元の世界の家族が恋しいよ、でもね、それと同じくらいみんなといる時間は尊いよ」

 澄香はちょいちよいと手招きする。だから橙夜は枕元に移動した。

「橙夜君はみんなをまとめる力があるんだよ、バラバラだったみんなを家族にする。それはきっとどんな力より大切だと思う」

 彼女は遠い何かを見ている。

「……あの時、亮平君に日高高校で告白された時、私すっごく頭に来た。だって橙夜君もいたから」

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