第12話

「さて、どうしようかね?」

 ルセフが荒れた唇を舐める。

 アイオーンはジュリエッタの敗北に、素早く動いた。

「ジュリちゃん!」

 暗記してある呪文をもどかしくも唱え、魔法を発動させる。

「ファイアー・アロー!」

 火の矢がルセフの巨躯に放たれた。

「うおっ!」

 ルセフが動揺した瞬間、ジュリエッタはその場から離れた。ただ彼女は武器を拾えていない。

 ……次はぁ……。

 しかしアイオーンの魔法に次はなかった。

 彼女は突如、電撃により全身が痺れ動けなくなった。

「ショッキング・サンダー!」

 いつの間にか一人の女が薄笑いを浮かべていた。

 茶褐色の肌に白い髪、そしてアイオーンと同様に整った容姿。

 ……ダークエルフ! 

 アイオーンは愕然とした。敵にダークエルフのソーサラーがいたのだ。

 全く気配を感じられなかったのも衝撃だが、人間に混沌の勢力が手を貸しているのは一大事だ。

「よくやった、アグライアー」

 亮平がにやりと笑うと、ダークエルフは深々と頭を下げる。


「後はお前だけだなぁ、橙夜よぉ」

 亮平は薄笑いを浮かべて、橙夜を見下ろした。

「たよりになる仲間だな、ええ?」

 橙夜は怒りに震えた。大事な仲間を傷つけられた。

 もう、亮平への親しみはどこにもなかった。

「澄香!」亮平は怒鳴る。

「お前が大人しくこっちにくれば、コイツは傷つけないいでおく。どうする?」

「ダメだ! 澄香さん、こんな奴に従うことはない!」

「ああ?」亮平の目つきが剣呑になる。

「こんな奴だと? 何だテメー、イキりやがって。俺のパンチでいつも大人しくなった癖に」

 橙夜は思い出す。いつの頃から、多分幼い頃から、亮平は橙夜が意に添わぬと腹に拳を叩き込んだ。

 痛みと苦しさで橙夜はすぐに白旗を揚げたが、今はそうなってはならない。

「いいさ、また教えてやる」

 亮平はロングソードをひらひらと振った。

「どっちが王様だかよ!」

 亮平は素早く踏み込み、剣を振るった。

 間一髪でそれから逃れつつ、橙夜は己の不利を悟る。

 リーチだ。ロングソードとショートソードでは致命的にリーチが足りない。

 つまり橙夜はより亮平に近づかないとならないのだが、運動神経的に難問だった。

「はっ」と実際、亮平は軽やかにステップを踏みながら嘲弄するように剣を扱う。

 彼にとって遊びだろうが、大した防具もない橙夜はそれだけで少しずつ傷ついていった。「橙夜君!」澄香が治癒でも考えたのか近寄ろうとするのが見え、

「ダメだ、来てはいけない! 君はそこで見ていてくれ」と橙夜は止めた。

「へぇー」亮平はにやにやと嘲笑する。

「やせ我慢しやがって、澄香の前だから格好着けたいのか?」

 亮平は顎をあげる。

「だとよ、アーレント、お前も俺を治すなよ、何があってもな……ま、何もないがな」

「はい」とアーレントと呼ばれた白ローブの可愛らしい金髪巻き毛少女が無表情で頷く。

「てめえなんかがこの俺に勝てる訳がないと、時間を掛けて再教育するのもいい、なっ」

 亮平の攻撃が再開される。

「くっ」防戦一方の橙夜は後退しながらも驚きを隠せない。

 彼もジュリエッタとの訓練でそれなりに力をつけたつもりだった。だが亮平はそれを易々と越えている。

「へ」と亮平は橙夜の内心を見抜いたようだ。

「俺はな、この世界にあの変なエルフに連れてこられてから、この世界が力の世界とすぐに理解し、ずっと戦って来たのさ。アグライアーに協力して貰ってな」

 アイオーンと対峙するダークエルフが笑みを零す。

「そうさ、お前は女々しいからできなかったろうが、俺は躊躇無く化け物や人間もぶっ殺してやったぜ!」

「それのどこが自慢になる!」

 橙夜は亮平の不用意な大降りを身をかがめてやり過ごし、地を蹴った。

 ショートソードを亮平の肩に振り下ろす。力加減をして……。

「ダメよ! それじゃあ!」

 ジュリエッタの警告が上がる。

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