153 世代交代の時期④少女達の能力と希望
夜中。
何とかその日の作業をある程度のところできりにして、皆それぞれの部屋に戻って行く。
新しい二人は、空いている部屋を早速掃除がてら、自分達にとって住める環境に作り替えた。
「……いやお見事」
「この部屋こんなに広かったのね……」
気がつくと物置部屋が増えていた、というのがこの工房だった。
もともと決して小さすぎる建物という訳でもないのに、何故か気がつくとどんどん狭く感じられる様になっていたとのことだった。
それがまずポーレが来てある程度改善された。
使っていない部屋=物置きだった状態から、物置と空き部屋、という様にきちんと分けられる様になった。
無論それから時間が経ち、片付けの余裕が減るとその空き部屋に物を置き出す羽目になるのだが。
ある程度溜まるとポーレがそれを整理してきちんとあるべき場所へと移動させていくという流れだった。
ただ今回は、彼女が居ない時間が多少長かったため、空き部屋に物が置かれっぱなしになっていた。
「片付けの要領を教えるわ。それができたらここを貴女達の部屋にしてね」
ベッドだけは一つしかなかったので、他の部屋から皆で運び入れた。
「こんな広い部屋使っていいんですね」
イリッカは胸の前で手を組み、きらきらした目で窓にかかるカーテンを眺めた。
「この部屋の中だったらどう改造してもいいって先生もおっしゃってたわ」
「本当ですか!?」
「本当よ。私とテンダー様の部屋もそう。使いやすい様に二人で話し合って色々変えていったの」
「テンダー様、なんですね」
ぽつん、とサミューリンがつぶやいた。
「え?」
「いえ、同僚なのですよね? ポーレさんは、今は」
「ええ…… まあ。でも元々は私は乳姉妹だし」
「うーん」
二人とも今一つ飲み込めない、という様に首を傾げる。
ああそうか、とポーレは思う。
彼女達は故郷で「お嬢様」なリューミンの子供達と対等に話していたのだ。
「先生や先輩に対してなら分かるんですが」
確かにこの子達は自分達に少し過剰なほどに恭しく接してくる。
実際、向こうでは年代による上下は厳しい様にポーレの目にも映っていた。
「そうね。でもそこは文化の差なの。私にとってはいつまで経ってもテンダー様は私のお嬢様だし、それはきっと変わらない。そしてたぶん、この帝都ではそういう関係の人達も多いと思うわ。だから自分達のところの習慣はそれとして、ここでは違うことも多いから、それは注意してね」
はあい、と二人は元気よく答えた。
*
繁忙期が過ぎた時、カメリアは二人に対して自分で作った服があれば見せる様にと命じた。
「あ、持ってきたもの全部です」
「私も。皆裁縫は冬の手仕事として七つ八つの頃から教わります」
そう言ってクロゼットに「畳んでおいた」自分達の服を持ち出し、カメリアの前に見せた。
「形は皆同じなんですが……」
実際その通りだった。
作業台の上に乗せた服は平面的な、非常に単純な形だった。
「成る程、曲線は無し。草原のそれよりはスカートの広がりはあるけれど、布をできるだけ無駄にしない方法ということね」
カメリアは服を裏返し、縫製を見る。
「しっかりした糸で縫われているわ。縫い目自体も綺麗。揃っているし。細かくは…… 布地の厚さと糸の太さからするとこれが一杯というところね……」
袖は筒型。
全体的に緩めにとってあり、袖口だけが別付け。
「で、そこに刺繍、と…… そうね、形が違うからこそ、刺繍の意匠が色々あるのよね」
そして再び表に返し。
「着ている分にはとても楽な――テンダーの作りたい服にも近いでしょう? でも貴女方は帝都で流行っている様な服を作りたいの?」
「帝都で流行っている様な服も、と言えばいいでしょうか」
「も?」
「常日頃は無論それでいいんです。ですが、これからきっと、向こうにも沢山のこちらの人達が来やすくなるって領主様がおっしゃってました。その時やってくるだろう女の人達の服のことを知らないともてなしをしたとしても侮られるのではないかと思ったのです」
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