152 世代交代の時期③やって来た少女達
「イリッカ・ディンです! 十六です!」
「サミューリン・ザカリです! 同じく十六ですが、イリッカより三ヶ月先に生まれました!」
連れられてきた二人の三つ編みの少女達は元気にそう名乗った。
「ものになるまで下働きから一生懸命やるように、とお嬢様から言われてきました!」
「掃除と料理は叩き込まれてきました!」
そうにこやかに言う二人に、工房の皆は顔を引きつらせた。
「……テンダー、うちのことリューミン嬢にどう説明したの?」
「ま、まああるがままに」
「あ、お嬢様からお手紙を先生とテンダー様に預かってきました。それと姉弟子となるお三方にも」
イリッカの方が手紙を差し出す。
え、自分達にも? とアルカラとレダは目を丸くする。
ポーレはなる程、と神妙な顔で頷く。
「はい! 特に必要としていなかった人員なのに、わざわざ教え子として加えてくださる以上、礼儀は尽くす様にとも!」
言葉一つ一つに若さから来るのであろうわくわくした気分が漂っていた。
とりあえずテンダーとポーレは自分宛の手紙を開く。
ポーレはうんうんと頷くとすぐにカメリアに向かい。
「先生、どうやらとりあえずこの二人は今の繁忙期には私の手伝いをしてもらう方がよさげです。厨房と清掃のことをそこで覚えてもらいましょう」
「そうね、まずはこの忙しさから脱出しないことには何も始まらないわ。お願いね、ポーレ」
「分かっています。じゃあ二人とも私に付いてきてね。早速今から買い出しに出るから」
はい、と揃って元気よく返事をする少女達を連れ、ポーレは厨房へと向かった。
「皆、何って?」
カメリアは弟子達に手紙の内容を問いかける。
「まあ、……これこれこういう子だから、お願いする、ということを」
「私もです」
アルカラとレダは端的に答えた。
実際彼女達とリューミンは面識が無い。
故にそれ以上のことは書けないのだろう、と聞きながらテンダーは思う。
「私のは――まあ、お二人のと同じことと、あとは私信です」
「まあそうよね。そもそもリューミン嬢は貴女の友達だし」
「あれ? 結婚なさってるんですよね? その方」
レダは首を傾げる。
「ああ。結婚はしているけど、婿取りだから。向こうではリューミンはあくまで伯の娘ということの方が大きいの」
「それは風習?」
「ううん、きょうだいの中には男でも外に出たひとも居るし、女でも残るひとも居るって言ってたわ。リューミンは何処かへ嫁ぐより、あっちで皆と一緒にやって行く方を選んだから、今でも辺境伯令嬢の肩書きのままらしいわ。伯も次世代の中では彼女に大いに期待しているし」
「じゃあリューミンさんが次の伯?」
「さあそこまでは。それに向こうでは帝国の辺境伯という肩書きよりあくまで『領主様』っていう感じ……「そうなんです!」
エプロンを着けたサミューリンがにこにこと笑みを浮かべてさあどうぞ、とワゴンを運んできた。
「私達の故郷では、あくまで領主様は領主様、辺境伯様という言い方は致しません。そもそも私達はどうにも帝国の臣民という感覚がお嬢様に言わせると薄いらしくて!」
言いつつもさあどうぞさあどうぞ、と茶と共に見慣れない菓子をワゴンからテーブルへと運んでくる。
「……これは?」
「私達の故郷でよく食べられている簡単かつ美味しいお菓子です。でもびっくりしました。帝都だとあんなに卵もミルクも高いんですね!」
小さなカップに入った温かなプディング。向こうで確かによく食べたな、とテンダーは思い出す。
「カップのままでいいの?」
カメリアは訊ねる。
彼女もまた、郷里と帝都しか知らない人間なのだ。
「はい! お口に合えば幸いです!」
レダは少し匂いを嗅ぐと首を傾げる。
「あら? しょうがの香り?」
「はい! 寒い日には暖まりますから!」
そうなのだ。
確かにこれは作るのが簡単なものだった。
卵とミルクと砂糖にほんの少しの塩。
その中に朝のパンの残りだったり、保存しておいた果物の甘煮を入れたりする違いはあれども、向こうでテンダーは子供やその母親達と共に作業の合間に御馳走になったものだった。
「貴女が作ったの?」
「むしろイリッカです。私はどちらかというと、後片付けの方が得意で!」
へへへ、とサミューリンは顔をほころばせた。
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