154 世代交代の時期⑤友曰くの事情

 実際、この二人の少女達は、単純に生活していくだけの服を作るだけの技術なら既にあった。


「家事全般は、やり方は習いなさいとお嬢様に言われました。こちらでのやり方を覚えれば、いつか建てられるだろう宿泊施設でも役立つだろう、ということで」

「つまりは、ドレスを作りたい、というだけでなく、帝都のある程度の身分や資産のある人々の生活様式全般に対応できる様にしたい、ということかしら」

「私達に関してはそういうことになります。ですが私達のあとに続く中には、純粋にドレス作りそのものに憧れて裁縫師になりたいという熱意がある人が出てくるかも。――というのはお嬢様の受け売りですが」


 実際、似たことがリューミンからの手紙の中には書かれていた。

 「私信」として。



 親愛なるテンダー

 (前略)

 お願いする理由はとりあえずは以上のことなのだけど。

 それよりまずね、何よりこの子達に私が見てきた様な世界を見せてあげたい、と思うの。

 優秀な子達なのよ。イリッカもサミューリンも。

 たぶんね、最初から学問をやっていたなら、それはそれで伸びたかもしれない。

 だけどこの子達、やればできるのかもしれないけど、やろうとかやりたいと思えるだけの指標が無いの。

 私はそれが凄く勿体ないと思ったわ。

 だってあの頃、私達とっても色々なことしてたじゃない。女学生だけの寮であったからこそだったと思うけど。

 この子達は――本人達はきっと聞かなくては言わないと思うんだけど、元々親が早く作業中の事故で亡くなってるのを、皆で育てたの。

 それがまあ、五つ六つの頃かしら。

 だからどうしても周囲に何かと遠慮しがちで。

 学問よりまず身支度は自分で、作業を早く覚えよう、その上で読み書き計算はできるだけ早く覚えよう、っていうのがちょっと涙ぐましいくらいだったのね。

 薦めてみたことはあるのよ。上の学校に行ってみないかって。

 だけど二人ともまあ頑固でね。

 自分は育ててくれた領主様やお嬢様達のために何かしたい、というばかり。

 だから私はお父様に相談したのよ。

 まず、貴女の甥姪をしっかり元気で皆と一緒に駆け回り、作業もし、それでいて年頃になったらちゃんと帝都の寄宿学校に通わせられる程度の勉強が身につく様にしたい、とね。

 そしてその一方で、あの子達を広い世界に出したい、とね。

 お父様は新たな開発の件もおっしゃったでしょ?

 帝都直通路線の開発がどの程度、どの期間でできるかは分からないけど、少なくとも中心になるのは私達よりはあの子達の世代だと思うの。

 だから、その時既にある程度帝都周辺の常識をも身に付けた人材を育てておきたいの。

 親愛なるテンダー、私の一番素敵な時期を共に同じ部屋で過ごした貴女なら分かるでしょう?

 その時期に自分を満たしたきらきらしたものは、きっとその後の人生をも照らしてくれるのじゃないかって。



「なるほどなあ」


 そちらではどうか、という話をしに「123」に呼び出したヒドゥンはその手紙の内容を聞くと、コーヒーを前にしてうなる。


「そっちではどうですか?」

「うん、才能はまあまだ分からないけど。それでも雑用に関しては俺のとこの子もファン先生のとこについた子も、皆てきぱきやってるな。絵の子だけはちょっとテンポが違うけど」

「テンポ?」

「とは言っても、まあ自分のことは自分でできるけどな。何か、絵にしたいものを目の前に見つけてしまうと、そちらに集中してしまって、時間を忘れてしまう。まあ第五にもそういうのは居たから、なるほどなあ、と俺は思ったけどな」

「じゃあ本当にそちらの場合は、才能を伸ばすためという感じで?」

「うん、と言っても、役者も医者も化粧師も人間関係や気遣いは大事だからなあ」


 ああ確かに、とテンダーも頷く。


「そらな、確かに役者でも、本当に天才って言うか、別人に憑依されてしまう様な奴ってのはほんの時たま居るし、そういうのは確かにちょっと日常生活でも困るくらいの、どっかのネジが一本外れて別の何処かにとんがった何かを取り付けてる感じだったりするさ。まあだけど今回連れてきた子は、意欲はあるけどそこまでじゃあない。だったら確かに礼儀や対人関係は良い方がいいよな」

「絵の方の子は?」

「とりあえず第五の試験までは、あの子だけは好きにさせてる。どうやら向こうのリューミン嬢からも皆それなりに言われている様で、あの子は綺麗な絵を描くからいいんだ、っていう目で上手いとこ放っとかれてる。何って言うか、確かにいい環境で育ったな、皆親は居ないってのに」

「そっちもですか?」

「まあな、逆に親が居たらこうやって帝都に送り出したりしなかったかもな」


 それはあるな、とテンダーは思った。

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