112 お茶とコーヒー②

 テンダーは少し考えた。

 そしてふと、友のところに行った時のことを思い出した。


「まあ、単純に別々に場所を作ればいいとは思うのだけど……」


 エンジュは独り言をつぶやく。


「お茶で何かしらのミルクを入れるっていうのがあるわよね」

「何かしらのミルク?」

「ええ、結構リューミンのところへ行った時には暖かいミルクをもらうことが多かったのよ。牛だったり山羊だったりそれは色々だったけど。その中に蜂蜜を入れたり。で、あえて濃く淹れたり、煮詰めすぎてしまったお茶の中にミルクを入れて呑むこともあったのよね。そこにまた蜂蜜を入れたり砂糖を加えたり」

「甘そう……」

「あらエンジュ、貴女昔は甘いもの好きだったじゃない」

「そりゃあ好みだってだんだん変わってくるわよ。甘いものも今でも好きだけど、今だと…… あれかしら。チョコレートを入れた苦甘いどっしりとした焼き菓子とか」

「いや、その方が濃いでしょ」

「どうしても仕事して今の様な生活していると、ちょっとの量で腹持ちが良くて目が冴える様なものが欲しくなるのよね……」

「チョコレートを菓子に使うものがあるんですか?」


 ポーレが訊ねた。

 彼女の言うところの「チョコレート」はあくまで飲み物、もしくは柔らかいクリームに近い感じのものだった。

 どろりとした豆の匂いの強い、だけど砂糖を加えるとそれはそれでお菓子として美味しいと言える様な。

 帝都に来てそれなりの時間は経つが、ポーレの買い物のテリトリーにはそれは無かったのだ。


「ん? 知らない?」


 エンジュはそう言うと、棚から箱を取り出す。


「こういうのだけど」


 常備してあるのか、とテンダーとポーレは一瞬顔を見合わせた。

 どうぞどうぞと一つ勧められたので、二人は手に取る。


「こ、濃い…… エンジュこれ、お茶にミルクに甘みどころの騒ぎじゃないでしょ」

「ええと、バターの量の多いケーキにチョコレートを初めから混ぜ込んである、って感じですか?」

「さすがポーレさん! そうなのよ。帝都でも貴女方の常に行きそうな通りとはちょっと外れた辺りに近出た店なんだけどね、南西でよく作られる様になった菓子を帝都にも、ってことらしくって。ほら、店を出すにしても土地代がかかるでしょ? だからその辺りでちょっと常に大変そうなんだけど。でも面白いと思って私贔屓にしているの。それにこのケーキとコーヒーがよく合うのよね」

「それはまた」


 濃いものと濃いもののぶつかりあいだ、とテンダーは思う。

 だけどそういうものを好む人々には良いのかもしれない。


「刺激が欲しいってことかしら」

「うーん、どうかしらね。元気にはなるわ。それに頭がしゃきっとする。時間が無いことが多いから、ついついねえ」


 そんな刺激の強いものばかり食べて大丈夫なんだろうか、とテンダーは思わないでもない。

 とは言え確かにこの類いの濃いものが欲しいという気持ちも分からないでもない。


「叔母様が以前もの凄く忙しかった時には確かにコーヒーが呑みたいってこぼしていたわ」

「そうでしたね。だけど布地に匂いが付くから、と職場には一切持ち込みませんでしたが」

「成る程! そういう問題も貴女方にはあるのよね」

「結構匂いは簡単に布につくものだし。私の扱っている、ほら、夜会じゃないものとかならともかく、叔母様は何と言っても」


 ねえ、とテンダーはポーレと頷き合う。


「ふうん。じゃあコーヒーが行けばすぐ呑める場所があればどうかしら」

「そりゃあ……! ってもしかして、エンジュ」

「そう、コーヒーとそれに合う喫茶室を作ってもいいんじゃないか、と父に進言してみたのよね。まあアイデアだけだけど。やっぱりお茶と違ってコーヒーはコーヒーだけだもの。よほど好きな人がちゃんと居るという確証が取れないと商品にはできない、とも言われたし」

「その時に、そのお菓子の店と組む?」

「ことも考えているわ」

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