97 とりあえず顔は合わせず夏
そしてまた夏期休暇が来て、アンジーはまたクライドさんに送られて戻ってきた。
この時私は、父に了解をもらって少し前からリューミンのところへ行っていた。
何度も何度も「子供見に来て!」攻撃が来たのだ。
さすがにそろそろ行かなくてはまずいだろう、と。
父は父で、私が居ない方が状況が穏やかだろう、ということで簡単に了承してくれた。
「で、本当に辺境だけですか? というか、私帝都までは行かせていただきましたが、テンダー様が何度か行かれたという向こうは初めてなんです! もう胸がばたばた」
ポーレはこの長旅に相当浮かれていた。
まあそうだろう。
私が家に戻ってから色々思うこともあったろうし。
「正直、使用人の皆がテンダー様の縁談がどうなるか固唾を呑んで見守ってる状態ですよ」
「で、ポーレは」
「無論私はテンダー様と一緒に帝都に行くつもりですから、皆の話には常にはぐらかし一択です」
にっ、とポーレは笑った。
「賭けとかしている?」
「そりゃあもう。こういうことにはしない方がおかしいですよ。でもその賭けとは別に、テンダー様が破談になった時に出て行くんじゃないか、ということに対しては結構怖れてるメイドも居ますよ」
「そうなの?!」
それは驚いた。
「でもテンダー様が気に病むことないですよ。つまりは奥様とアンジー様の関心が自分達に向かないでテンダー様を追い落とすことだけに向いてる方が楽ってことだけですから」
「あ、なるほど」
「いやもう、実際この二年少し、今までになく皆心安らかだったようですよ。私もテンダー様が学校に行っていた間、皆と一緒にメイドやっていた訳ですけど、奥様もアンジー様も気に入らないことがあると結構使用人に当たりましたし」
「そうだったの!」
「で、相変わらずピアノはずれて行くし。……第四ではどうなんですか? ピアノや歌ってあるのでしょうか?」
「第一よりはあるんじゃないかしら?」
「……あのピアノと歌を?」
「……あの子にとってはそれが正しいんだわ。あの子の中ではね……」
あの何故か何処か調子の狂ったピアノや歌は、おそらくは「音痴」という部類に入れられるだろう。
だがしかし、第四でもとうとう残った「一割」に対し、果たして何か言える者が居るだろうか?
いや、その前に音楽の授業に出ないという可能性もある。
何にだって抜け道は存在する。
おそらくアンジーはそういうことには頭が回るのだろう。
そして帝都で何かとクライドさんと連絡を取っては会っていた。
まあ私では絶対できないことだ。
良くも悪くも。
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