98 母となった友は強し

 領都の駅に降り立った途端、以前の様に幌馬車で迎えにきてくれた友人は、勢い良くこっちに抱きついてきた。


「テンダーやっと来てくれたのね! ほらみてこっち見て、私の子供っ! あ、そちらは」

「さすがねリューミン! あ、こっちは送り迎えの時に見たと思うけど、私の乳姉妹のポーレ。この後帝都の叔母様のところにも向かおうと思うので、一緒に」


 姉妹だか従姉妹だか分からないが、相変わらず沢山の人々の中の二人が赤ん坊をそれぞれ抱いていた。

 小さい方は割と最近生まれたのだという。

 ポーレはリューミンに向かって深々と頭を下げると。 


「宜しくお願い致します。リューミン様におかれては、テンダー様のお手紙で常々」

「やだ貴女何書いてたの! こちらこそ宜しくポーレ! 今回はお客様ですからね、テンダーと同じ扱いで休暇を過ごしていただくわ」


 その言葉通り、最初の年に私が目を白黒させた体験をポーレにも思いっきりさせてやった。

 特に羊に関してはできるだけ近づけておきたかった。


「これが羊…… これを見せたかったんですか?」

「そう。叔母様のところに行くにしても何でも、私がこっちで知ったことはポーレにも知っておいて欲しいと思ったの」

「そりゃあまあ」


 糸繰り作業に参加しつつ、ふわふわの毛を手にしながらポーレは頷いた。


「それにしてもリューミン、手慣れたわねえ」

「そぉ?」


 言ってる最中、リューミンは背中に背負っている子供が乳を求めて泣くのを察すると、さっと下ろして胸元を開いた。

 いやもう、以前とは全く大きさが違う!

 そして満足した赤子の背中をぽんぽんと叩く。


「まあ日課だし。それに私だけが世話している訳じゃないし」

「はーい、私もしますー」

「俺もー」


 彼女の数多いる弟妹が作業中に手を挙げた。


「さすがに背負ってるだけではむずがる時にはこの子達にお願いして、見える範囲で遊んでもらってるの。それに夜中のおっぱいは起きた誰かが私の乳を飲ませてやるし」

「乳母は無し?」

「そうね、あまり居ないわ。あ、でも乳が出る間は、ともかくよく食べさせてもらえるのよね」


 そう言えば胸だけではない。

 全体的にふっくらとしていた。

 そのせいだろうか、以前から色んなことに鷹揚な彼女がまた一層包容力を上げた様な気がした。


「まあここでは子供は産める時に産んでおけ、だからね。私自身のためにも、皆のためにも。人手はいくらあってもいいし。うちは帝国からも沢山子供を作る様に推奨されているし」


 前に聞いた、辺境伯家の子女の役割。

 いつどんな時にあっても良い様に、人員は居た方が良いのだと聞いたことがある。

 この友人には、一生掛かっても敵わないだろうな、と思った。

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