93 婚約者とのいさかい

「そうだよ、アンジーから聞いた。社交界での噂のきっかけは君だったんだな」


 クライドさんが自宅へ戻る寸前に少しだけ時間をとってもらい、私達は西の対の庭を歩きながら話した。

 ぱき、と近くの枝を折りながら、私に背を向けた彼は低い声で肯定した。


「わざわざあんなやり方で妹を貶めるなんて、どれだけされた側が辛いか分かっているのかい?」


 なるほど、この言い方だとやはり「アンジーを通しての真実」しか聞いていないのだろう。


「あの頃、第四に入学したばかりのあの子が我が校に押しかけてきたというのは事実ですし。それから第四と交流をとる間に観察していましたが、変わらず非常識なことを繰り返していたのは事実でしたので。私は第一の自治組織の幹部でしたから、どちらの学校の生徒にとっても良い影響がある出し物をに参加し、させただけですわ」

「だが、彼女を外すことはできた。君の妹なんだから。ねえテンダー、たった一人の実の妹に対して酷くないかい?」

「いいえクライドさん、結構な問題になっておりましたのよ、当時の第四の生徒の行動は。しかも同じ第四の生徒の大多数の勉学に支障が出る程に。実際合同祭の出し物を行ってから、官立の生徒として相応しい行動に目覚めた者も多かったのですわ」

「いつもよりずっと饒舌だね、君は。何でそれをいつも僕との会話の時に発揮してくれないんだ?」

「私はできる限りしていたつもりでしたが」

「いや違うね」


 クライドさんは両手を挙げて、大きく首を横に振った。


「君との会話はとても上っ滑りなものだ。しかも、もう婚約してそれなりの時間が経っているというのに、僕等の間には相変わらずこのテーブルが邪魔をしている」


 ぱん、と彼はテーブルを叩いた。


「アンジーは違うとでも?」

「そう来たか」

「私のそれよりも、貴方方の距離感の方が私には気になりますが。アンジーが言ってましたが。向こうで服をわざわざ着替えてお会いになっているのですって?」

「ああそうだよ。そう、まえの夏期休暇の時に、一緒に戻ったのがきっかけだ。あの子は実に楽しそうに僕の話を聞いてくれて、いちいち新鮮に驚いてくれる。君はふんふんはいはいと大人しく聞いてはくれるがそれだけだ」

「では貴方は私にどうしろと?」

「もう少し心を開いて打ち解けて欲しい」

「私の精一杯をやっているつもりですのよ」

「だとしたら君の心は石でできているのだろう。アンジーは違う。テーブルにこのように差し向かいになっても、彼女は僕の話に夢中になればなるほど、頬杖をつき、僕の方へと前のめりになってくる。

ああ興味があるのだなあと僕も嬉しい。だが君はいつも冷静に僕の話をはいはいそうですかと聞いているだけじゃないか」


 それに関しては図星なので何とも言えなかった。


「私は私なりに努力しております」

「君と僕の努力の度合いが違い過ぎるんだ!」


 彼は両手の拳をぐっと握った。

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