90 冬季休暇に来客あり

 やがてこちらに戻ってから、二度目の冬季休暇時期になった。

 すると、迎えに出た馬車の中からアンジーと一緒にクライドさんが現れた。


「お帰りなさいアンジー! まあぁ、クライドさんもご一緒で! ありがとうございます」

「ただいまお母様! おかげで道中ずっと楽しかったわ!」


 などという会話をする彼等を私とポーレは西の対の庭から眺めていた。


「奥様の態度が凄いですねえ」

「夏に出会って~冬までの間に果たして帝都で何度デートしたのやら」


 ふふ、と私は笑った。


「やっぱり顔なんですねえ。テンダー様の言ったとおり」

「でしょうね。砂時計型のドレスの魅力とか何とか言った時、確かヘリテージュのきょうだいだの親戚だのの男性は、皆そこで胸だの肩のラインだの鎖骨だのってまず身体の何処其処を答えたのよね」


 無論それは相手がヘリテージュだからだろうが。

 彼女は相変わらず有無を言わせず直進している様だ。


「だけど顔、と言うひとは誰も居なかったって言ってたわ。まずそもそもその質問で顔と答えるのは失礼だろうって彼女は言ってたし」

「ヘリテージュ様という方はそういう紳士の方々の間に顔が広いのですか?」

「まあいつか会えばすぐに分かると思うんだけど。ちょっと地方になる伯爵家と、さすが上位貴族の侯爵家じゃ違うわね。ともかく人を見る目が」


 曰く。

 その質問をしたならば、相手が求めているのは「身体を砂時計型に整えることに対してどう思うのか」の相手なりの回答なのだから、そこで顔と答えるのは筋違いだ、だがそれだけに本心なのだろう、と。


「クライドさんは正直だから本心が出てしまったのよね」

「で、あれですか」


 そう、あれ。

 そろそろ偶然を装っていった方がいいか。

 庭の冬薔薇を切ってもらったものを、さっきから棘をぷちぷちと二人で取っていたのだ。


「行くわよ」

「はい」


 本館の玄関へと向かって行く。

 私の後ろには薔薇を抱えたポーレ。


「お帰りなさいアンジー。こんにちはクライドさん」

「やあテンダーさん。向こうで妹君がちょうどこの時期に戻ると聞いたので、ご一緒させてもらいました」

「ありがとうございます。やはりちょっと時間がかかりますものね」


 にこやかに笑みを浮かべて、皆で中に入る。

 微妙に母の表情が固まったのが見えた。

 来ることは知っていたからこそのお出迎えなのだろう。

 実際ポーレ曰く、今日の調理場はいつもの帰還祝いより豪勢な料理の下ごしらえをしていたらしい。


「正餐が昼ではなく夜らしいですし。テンダー様はいつもアンジー様のお帰りの時には居ないことが多かったことを考えると」

「そうね、確かに狙ってたわね」

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