89 ドレスのリメイクに取り組ませた

 とりあえず今はドレスについてあの二人の出費を少しでも減らすのは無理そうだ。

 まあ、父とデルデス伯爵の方でやっている事業の方は順調な様だ。

 それだけでも相当今までよりはましな状況にあった。

 ただ、父が下手に母や妹からねだられて負けてしまうこと。

 それはもう、ひたすら阻止するしかなさげだ。


 何度か情報収集のために出向いたデルデス伯爵家の親戚筋のお茶会でも、どうやらドレスに関しては皆あまり我慢をしていないらしい。

 いや、単純に欲しがる量が違うのか。


「夜会ごとに違うドレスが必要なんですか?」


 頭でっかちとしては、その辺りに無知なところを見せておく。

 実際私にはその心理も状況もよく解らないのだから、そこは場慣れした人々の意見をひたすら集めてみるのがいい。


「そりゃあ必要ね」


 とある奥方は言った。


「やはり侮られてしまうでしょう? もし同じドレスを二度も三度も使い回しすれば、あああの家は今資金繰りに苦しいのだな、とか思われてしまうじゃない」

「だから私達のドレスは、家の面目を保つための投資と言ってもいいのよ」


 無論その後に、「だからその家庭教師の様な地味な同じ様なドレスばかり着るのはいい加減止しなさいよ」と続くのだが。

 これでもし私が下手に飾ろうとするならば、それはそれでまた新たな噂やら批評やらを呼び込んでしまうので、それは御免被りたい。

 だとしたら、できるだけお茶会だの夜会だのに出させない方がいいのだろう。

 それが無理なら、新規のドレスを作る機会を減らした方がよさげだ。

 あと、手の器用な使用人にドレスの形直しをさせたり、染め直しをさせるというのも考えてみた。

 昔から無い訳ではない。


「私のドレスの中でも一番色が淡いものを提供するから、それで流行の形を作ってみて頂戴」


 もしそこで端切れが出たなら自分のものにしてもいい、と言ったら若いメイドの中から何人か手が上がった。

 何せ端切れでも上等なものなのだ。

 それに少しだけど特別手当付きだ、と付け加えてある。

 当初はポーレに頼もうとも思った。

 だが私のオールワークスとなっている今は、さすがにその暇は無いと言われた。


「それこそ母さんが今は時間があると思うのですけど、問題は母さんには流行がわからないことですねえ」


 その点、常に新しい綺麗なものを追いかけている若いメイドはその辺りに意欲的なのだそうだ。

 あと、私の普段着は本当に簡素なもので、とも。

 正直、普段着るならば、女学生時代くらいの裾丈が良いのだが。

 さすがにそれは誰からも却下された。

 こればかりは、雑誌が何と言おうが今は無駄だ、と。


 母には、ドレスの非常に古いものの仕立て直しをもちかけた。


「あくまでも現在着ないもので構いません。お母様の嫁いできた頃のものとか」


 すると母はむっとした顔で。


「何故そんな必要があるというのです? 新しいドレスが必要な時には新しく頼むのが普通でしょう?」

「ですが最近では、古いドレスにしかない色柄というものが見直されてきている、と友人から送られてきた画報にも」


 送ってきたのはヘリテージュだ。

 いくら私の交友関係は基本どうでもいい母でも、彼女の名は「政府高官の娘」ということで残っていた様だ。

 だから彼女の名が書かれた封筒ごと母に見せて、その特集を見せた。

 ふうん、という顔で母は奥にしまい込んでいた二十年以上分のドレスを取り出した。

 私は先に練習させたメイドにそれを任せた。

 彼女達は大喜びで作業に取り組んだ。

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