88 布について友人に手紙を送ってみた

「親愛なる友セレ。


 貴女のことだから今も研究に日夜取り組んでいることだと思います。

 確か以前の手紙で、安価な合成繊維のことを貴女は書いてきましたね。

 確か絹に代わるものが、人工素材でできるとかできないとか。

 その辺りを少し詳しく教えて下さい」


「相変わらずなテンダー。


 合成繊維について聞きたい?

 どうしたんだ一体。

 まあ実際研究はしているんだ。

 元々私は織物工場で働いていたろう?

 織機の効率化に関しても考えたのだが、新繊維というものはやっぱり魅力的だ。

 ではそもそもその新繊維とは何か、というとだな。

 ほら、テンダーもリューミンのところで羊の毛を糸にしただろう?

 もの凄く細いものをより合わせて糸にしていき、それをまた織ったのが布だ。

 だからどんな布も、まず最初はもの凄く、もの凄く! 細かい繊維なんだ。

 絹は蚕という虫の吐き出す粘液で作られる細い糸がそれにあたる。

 あれは毛や綿や麻と違って、長い糸ができることが独特だな。

 綿はワタという植物から。

 麻も植物だが、それは茎の部分の中心にある柔らかい部分をほぐしたものだ。

 キリューテリャのところへ行った時、麻よりもっとざっくりした布を見たろう?

 あれはまた違う草の繊維を取り出して糸に縒り布にするんだ。

 じゃあその繊維、細かい細かい糸を動植物や虫という、気候天候に左右されないもので作れないか、というのが、私が師事している教授の研究なんだ。

 原料が、布というイメージからはほど遠いものから粘液を作り出して、それを繊維にして……

 という感じかな。

 まあ現在は、まだそちらではなく、今ある安価な材料でどれだけ高級材料の外見に近づけることができるか、ということの方が中心だ。

 例えば水辺の何処にでも勝手に生えてくる丈の長い草。

 ああいうものは生命力が強いから、収穫量がやはり高い。

 ただ、わざわざ栽培しようとする者も居ないんだがね。

 それでもそれなりに研究の結果が出たら、もっと安価に、そう裕福でない人々にも布地を行き渡らせることができるんじゃないか、と。

 まあそんな研究の一端についているわけだがね。

 だが貴女がわざわざ手紙を寄越すということは、何か考えがあるのか?」


「一を問えば十の答えが返ってくるセレへ


 なるほど、そういう研究はされているのね。

 絹に似た見かけで、安価な材料がもっと出回ったならば、やたらとドレスを買いまくる我が家の女性陣にかかる費用も変わるのではないかと思ったけど、まだ先の話なのね。

 でもそういう素材が本当にできる様になったなら、それに合うドレスを作るというのもありなのかもね。

 でもまあ今は、如何に古いドレスを今風にするかの方が大切かもしれないわ」

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