81 婚約者の親戚は頭でっかちもお気に召さないらしい
「はい、今まで勉強しかしてこなかったものですから、ここは皆様のご意見を是非にと。帝国の各地では様々な衣装がありますし、その中には、コルセットどころか、それに準ずるものを着けないものも多く」
「各地――まさか、それは辺境領とかのことをおっしゃっていらっしゃる?」
「はい。学生時代に友人の元を回ることができましたので」
「なるほどそれでこんな頭でっかちにおなりになったのね。そしてこの形も、帝都の社交界でこうと決められている暗黙の了解より、辺境の者や庶民の様な格好に寄せていこうと貴女の叔母様はなさっていると」
「皆様は辺境の土地の衣装の美しさは」
「美しい? まさか!」
「しかし博覧会とかでは」
時々各地の産物を集めて展示する博覧会が、帝都では行われる。
「それはそれ。そんなものを進んで身につけようなんてことになれば、どれだけ恥を掻くことになるか!」
そしてまたこれだから頭でっかちは、と三度目の言葉が上がった。
なるほどその点が彼女達には気に障るのか。
何となく納得した。
「そうなのですか…… 皆様の深いお考えには頭が下がる思いです。では、母や妹は、皆様方からすると……」
語尾をぼかしてみた。
「似合うことは似合うけれど、場所と自分の立ち位置をまるで考えていないですわね。昔から」
「昔……」
「そう、若いウッドマンズ伯爵の目はどうかしているかと思ったものね。ケイティは確かに綺麗だけど、所詮男爵家の娘。身分に相応しく目立たない格好をしていれば良かったものを……」
「伯爵家に嫁いだところで、男爵家育ち程度の教養はたかが知れているし」
「それこそ貴女の様な才媛がよくも育ったものだと思うわ」
ほほほほ、と笑い声が四阿の中に響いた。
「身分に応じた格好」
「そう、貴女はその意味では、少ぉし地味すぎるかしら」
「もう少し若いお嬢さんらしく、明るい色で飾ってみたら如何?」
いやどう見てもそんな明るい色やら派手な飾りは自分には似合わないのだが。
内心つぶやいたが、そこは口にも顔にも出さない。
この日のドレスは明るい色を避けた。
深い赤茶、それを更に少し渋くした色。
襟元は家庭教師のそれか、というくらいにぴったりとさせ、飾りも少なく、できるだけ野暮ったく見えるくらいの。
ちなみにこの社交場用のドレスは叔母様の工房に頼んでいた。
だから私の好みが直接反映していた。
私が目指したのは「目立たない姉」だ。
まあそこに頭でっかちがこれほど連呼される程気にされるものだとは思わなかったが。
それに気付いただけでも大きな収穫だ。
彼女達は派手で浮ついた妹も笑いものにできるが、私のことも硬すぎる頭でっかちで他のことは何も知らない女、と思いたいのだろう。
まあ間違ってはいない。
そしてそういうタイプもまた、彼女達の愛すべき親戚の若者に添わせるには喜ばしくはないのだろう。
さてそれでは。
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