77 叔母はコルセットの必要性に疑問を持つ

 一体何の話だ、と思った。

 するとまずリューミンが。


「嫌ですねえ」


 きっぱりと言った。


「そもそもうちの方では使わないんですよ。乳バンドの様なものを手作りして、それで揺れない様に胸を押さえて。確かにスカートの時に締めはしますが、私達の場所じゃ、冬にはズボン型を履くことが多いですから、帝都のドレスを見ていると、もの凄く辛そう」

「今は?」

「ドレスの形が形ですからコルセットつけてますけど、これでもかとばかりには締めてませんよ」


 確かにそうだった。

 リューミンの故郷の服は全体的にゆったりしている。

 そもそも花嫁衣装がそうだった。

 帝都のドレスの砂時計ラインとは全く違う。


「私も嫌でしたわ」


 キリューテリャも言った。


「私の方は夏が暑い地域でしたから、そんなに下着を何枚も何枚も重ねるなんてことは無かったし、時には海にだって入るのですし。色と柄が鮮やかな布を腰にぐるっと巻き付けるのが基本でしたし。上はシンプルなもので、魔除けのアクセサリをつけるのが普通でしたし」


 そう言えば確かに。

 東南辺境領では鮮やかな色と模様の布を腰に巻いた女性の姿が印象的だった。

 そしてまた、それをまとう女性達も何をするでもなく日にやや焼けた長い手足、細い腰を出していた。


「私はそもそもコルセットを使っていたと言っても、それこそ胸を上げておくとかその程度だったからな。ヘリテージュのところに行った時に着せてもらったアレは結構しんどかった」


 帝都近郊で育ったセレも言う。


「庶民感覚で言うなら、乳バンドがあれば充分だと思う」

「私はあるのが当然だと思っていましたけど、そうでもないんですね」

「ええ、歳頃になると付けるのが当然だと」


 ヘリテージュとエンジュはさすがにそう言った。

 私もそう変わらない。

 確かに楽な服を着ていた方だとは思うが、フィリアもポーレもコルセットが必要な時期だどうの、という話はしていた。

 使用人である彼女達もそれ相応のものを身につけていた。


「でも叔母様、一体どうして? コルセットについてどうかなんていきなり」

「第五に居た時に色々考えさせられることがあってね。今さっきのヒドゥンにしても、あれはあれでまとまった形になっていたんじゃなくて? 今この会場の中では変わった一部だったとしても、その姿単品を見れば。それに、何故腰を締める必要があるのか、考えたことがそれまで無かったなあ、と思って」


 確かに。

 辺境育ちの彼女達と違って、帝都に近い文化の中で生きてきた私達にとっては砂時計型は当然だった。

 だが何故、と言われると。


「東の海を越えた島国とかだと、そもそも女性の体型が胸を押さえる様な形の服を普段から着ていて、寸胴なのよ。一方で、南の方の人々はセレ以上に背が高く、そしてくびれはあるけど胸も腰も薄い。でも彼女達にはそれはそれで美しさがあるのよ。だったら、本当にコルセットで砂時計型を作ることは必要か、と思ってしまって」

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