78 婚約者との距離感

 コルセットは必要か? 


 この問いは、それからというものずっと私の中でぐるぐると回り続けた。

 家に戻り、父やデルデス伯爵の側の経営陣と顔を合わせたり、これからの計画やら、今までの領地経営の見直しやらであちこち動きながらも。

 そして時折あるクライドさんとお茶をする時にも。


「どうしましたか?」


 クライドさんはふっとその考えに頭をもっていかれた私を現実に引き戻した。



 出会った初め頃に「結婚前の距離感は大切にするべきだと思っている」という考えを私ははっきりさせておいた。

 当初彼は私の反応に驚いた。


「すみません、男兄弟が居る訳でもなし、学校には女子ばかりなのでつい」

「そ、そうですか」


 おそらく彼は、うちの評判をアンジーのそれで聞いていたのだろう。

 妹がそうだから、姉もきっと…… という思いがあったのかもしれない。


「真面目なのですね」

「硬すぎるとは思います。そちらは、うちの妹のことはどのくらい噂を聞いてますか?」

「……」


 彼は苦笑し、その時は具体的なことは言わなかった。

 だから私は少しうながしてみた。


「妹はとても可愛らしい外見をしておりますし、まだ子供なので、伯爵令嬢としての適正な距離というものを解っていない部分があります。それがどう伝わっているのかは判りませんが」

「なるほど、そういうことですか。僕が知っているのはウッドマンズのご令嬢はやや異性との距離感が近いのではないか、という噂だけです」

「それだけですか?」

「耳にしたものでは、もっと酷いものもあります」

「ですがそれでも我が家と提携して下さったのですね」

「元々うちとウッドマンズ家は古い付き合いなのです。お父上の代になってやや疎遠になってしまい残念だ、という話は聞いておりました」

「そうなのですか」


 そう、父にも確認を取った。

 どうやら父は母との結婚後、幾つかの家との関わりを絶っていたらしい。


「元々ケイティとの結婚はデルデス家もそうだが、お前の祖父母の代、それ以前から付き合いが深かった家からはあちこちから反対されていたのだ」

「なるほど、それを押し切ったことで、お父様は味方を減らした、と」


 だからこそ、少しでも信用を取り戻したいのだということだった。


「なので、僕も両親の気持ちを汲んで、お互いの家の発展のために尽くしたいと思います」

「ありがとうございます」



 そんな会話の後、私達が会う時にはきっちりテーブルという境界線が引かれている。

 色々動く合間を縫ってのお茶だった。

 だからつい、他のことに気を取られかねない。


「すみません、せっかくの時間に集中できずに」

「いや、貴女も忙しいと聞いておりますし」

「ええ」


 沢山の問題がなかなか頭の中でまとまらなくなっていた。

 だからこそ、このいつも心の底、頭の片隅で答えを出したいと思っている問題をつい。


「少しお聞きしたいのですが」

「何でしょう」

「女性のドレスについてどう思いますか?」 

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