75 卒業式のあとに①

 吊るし。

 既製品の紳士服では合わない、ということか。

 確かに彼が未だにあの体型であるとするならば、合うものは無いだろう。

 オーダーメイド一択だ。

 狩猟用の服とか似合いそうなのにな、とふと私は思った。

 とはいえ、やはり記憶に残るヒドゥンさんの姿はあの劇の中で身につけていた衣装だ。

 ……卒業式の日には、果たしてどの様な格好で現れるのだろうか?

 私は少し楽しくなった。



 そして卒業式当日。

 予定が合う父兄が見守る中、皆で卒業証明書を受け取った。

 これを受け取ったのは最初に入学した時の八割くらいだ。

 二割は途中で抜けて結婚してしまっていたり、学業についてこられなかった者だ。


「でも結婚してもまた戻ってくるのは珍しい例らしいわね」


 謝恩会の会場で、私はテーブルを囲み、晴れ姿の級友達を眺めた。

 皆それまでの制服を脱いで、ここぞとばかりにドレスを身につけていた。

 面白いのは、社交界で着るドレスより少しだけスカート丈が短いことだ。


「学校に居る時くらいだったんだもの。ああまたわざわざ階段の上り下りにスカートをつままないといけないのね……」


 ヘリテージュは嘆く。


「私はこの先もこの長さで通したいな」


 セレの格好には私も少し驚かされた。

 上着は男もの。

 劇の時に使用し、着やすい上等なものだから、とそのままもらい受けた。

 大きなヘチマ襟に、これまた大きなボタンがダブルでついたジャケット。

 そして、近い布地で作られたシンプルなスカート。


「これだけは布地買って自分で新しく作ったんだ。全く同じ生地とは言わないが、織り柄と色が似通っていればまあいいかな、と」

「いや、それ本当に似合ってるわ」


 私は思わず言っていた。


「うん、上がかっちりしているぶん、下のスカートの広がりが際立つというか」

「でも男物だ」

「女物でこの上着、作れないものかしら」

「何なに、服飾の話?」


 この日、私の保護者代わりとして出席してくれた叔母が話題に食いついてきた。


「ああ、確かにセレ・リタさんにはよく似合うわ。そうか、上着だけこの形を使うという手はあるわね……」


 ふんふん、と叔母は興味津々でセレの格好を上から下まで見る。


「叔母様、今日はそっちの話は」

「何を言ってるの。皆ここぞとばかりのドレスを纏っている貴重な日でしょう? ところで皆どうして、そのスカート丈なの?」

「そりゃあ、動きやすいからですわ」


 皆を代表してヘリテージュがきっぱりと言う。


「正直これから小さな靴を履いて裾を引きずりかねない生活に戻るとちょっとうんざりですのよ」

「そうね。私もミシンを踏む時にはスカート丈を女学校の制服くらいにするわ。町で働く女性は皆そのくらいだけど、貴女方はなかなかそういう訳にはいかないのね」


 叔母は苦笑した。

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