74 文通相手からの心配
「キミがそのあたり不安に思ってることは俺にもたぶん何となく、それでもわかる」
珍しくいつもより重力が高めの言葉が返ってきた。
「そのあたりは難しいもんだ。
男は仲良くなったと思うと女に近付きたいと思ってしまうが女に拒否されるとは思っていないことがままある。
正直俺の護身術はやってくるボケナスやら阿呆やらから逃げるためのものだった。
ただある時から逃げるよりは殲滅する方が楽じゃないかと思ったから、今はそうしている。
とりあえず男の身体の弱点を以下に記す」
箇条書きでずらずらと、彼は何処をどうすれば小柄な女でも男の突然の行動に立ち向かえるか書いていた。
確かに彼の身長とか華奢な身体では、対抗するには技術が必要だったことだろう。
「それであとは味方を見つけて同情を引け。
おそらくキミや、前に俺の相手役をした彼女とかだと難しいかもしれないがまあそれは仕方ない」
いやそれはちょっと失礼かと。
「キミの妹というのは、多分男に対しては恐ろしく有効な手段を天然で使えるのだと思う。
見たことは無いがキミの手紙の描写からすると、男に好かれるが女に嫌われる外見と内面を持っていると思う。
どういうのか少し演ってみたが……
天然は怖いな。
自分で演ってみて気持ち悪くなった」
ぶっ、と私は吹き出した。
「まあ泣き真似で充分だろう。
むしろキミがそこでヒステリーを起こさないか心配だ。
悪い意味の方と受け取らないで欲しい。
キミのソレは根本的に野郎という生き物に対し不信感があるからだと思う」
え。
「俺は舞台以外で化粧臭い女を突き飛ばしたくなったり、やたら舞台退けた後でも俺にハアハアしている野郎を蹴り倒したくなるんだが、アレはもう無意識に近い。
おそらく過去の出来事のせいだとは思う。
こういう役者をやってる以上、そんな馬鹿は男女問わず出てくる。
俺は媚びを売らなくてもいい様にひたすらやっていくだけだし、売れと言われたら言った奴を叩きのめす。
女のキミにそうしろとは言えないが、とりあえずは身を守ってくれ」
過去――
何かあっただろうか。
あるとしたら、一つしかない。
父だ。
私はそれまで生きてきて、極端にスキンシップが少なかった。
寮生活でようやくじゃれ合う同性を。
異性に関しては、ゼロだ。
子供の頃構ってくれた男性使用人は、お嬢様である私ときっかり距離を取っていた。
通常は子供時代に男親から多少なりともスキンシップがあることを、私は辺境伯領で知った。
考えられるのはそこくらいだった。
そしてまた、父が未だに母のことを愛して――というか恋していることを知って、更に気持ちの何処かで「きもちわるい」と思ってしまっている。
「卒業式付近に帝都近くで公演があるので、祝いに行くと思う。
その時にはちゃんと手袋を新調しておくので、握手くらいはしよう。
そう言えば先生は今工房をやっているらしいな。
キミがもし服を作る様になったら、俺に会う紳士服を発注する。
何せ俺に合う吊るしを見つけることは本気で出来ないんだ」
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