72 冬季車中で婚約者談義

 帰りは行きよりもさすがに雪も深くなっていた。

 だがその中でも車中は暖か。

 途中に何かと覆道が多い。

 夏の往復では大概夜間に通る場所だったので気付かなかったらしい。

 だがこの雪のために列車が走る時間帯も時々ずれ込んだ。

 二重窓の外は白一色。

 日差しがある時にはまぶしすぎてカーテンを引かなくてはならないことが往々にしてあった。

 そして夜になると、こちらの灯りに照らされて外の吹雪がまた横殴りに見えて、凄まじい光景だ。


「それでも行き来できるだけ良いわ」


 そう言う若奥様は、実ににこにことご機嫌だった。

 在学中に結婚する者が無い訳ではない。

 四年で退学して結婚する者もあった。

 五年はその意味もあって、割合自由が効いていたとも言える。


「セレの推薦も決まっていた訳だし。あとは卒業までなのね。皆と居られるのは……」


 そう言われてしまうとしんみり。


「結局家に戻るんだな?」


 セレが私に聞いてきた。


「お父様との約束と賭けだし。三年! あの家と使用人達のために多少なりとも下がったグラフ曲線を上げなくちゃね」

「その後は?」


 その後。

 無論私は婚約者に妹を選ばせる気だった。

 婚約が決まったあの後、私は相手方の家、デルデス伯爵家を訪問し、歓迎を受けた。

 デルデス伯爵夫妻はおっとりとした方々で、この列車の中で私達がしていた会話のやりとりと比べると、同じ物事を語る時に倍の時間がかかった。

 内容は無論通じる。

 ただ、ひたすらにおっとりしてらしたのだ。

 そしてその跡取り息子たるクライドさんは、「今までの私にとっては」あまり見たことがないタイプだった。

 実際は貴族の娘としては逆で、彼は実に「一般的な」令息だった。

 ただ私が今まで出会ってきた男性というのが、第五の生徒だったり、辺境領の人々だったりと、「普通の貴族令息」とはかけ離れてしまっていただけだ。

 そうなると。

 向こうのご両親に勧められて、二人にされたところで何を話していいのだか分からない。

 とにかく質問をしてそこから会話をつなげていった。

 向こうは私のその態度に対しては好感を持ったらしい。

 特に、自分の研究分野等を聞かれるのはありがたいらしい。

 そのせいだろうか。

 微妙に会う都度、物理的な距離を縮めてこようとするのが気になった。


「ともかく何としても結婚はしない。アンジーに獲らせる方向で何とかしてみるつもり」

「テンダーにとっては好ましいひとではなかったってことでいいの?」

「好ましいも何も、特に何にも感じなかったって、前も言ったよね。それこそ妹が欲しいというなら好きにすればいいと思うし。でも欲しいと思わせる方法が難しいな……」


 私はぼやいた。

 戻ってから卒業するまでに、ヘリテージュにその辺りをよく聞いておかねば、と思った。


「セレはそういう話は?」

「今は考えないね。ともかく上の学校で学びたいだけだ」


 このシンブルさは時々羨ましくなったものだ。

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