71 親友の結婚式

 リューミンの結婚式は箱建物の吹き抜けのある広間で行われた。

 領主のお嬢様の結婚式ということで、建物の内側の廊下を使い、下の会場を見下ろす形で好きに参加することができた。

 私は無論間近で見たかったし、リューミンも「絶対近くで!」と言ってくれたので、花嫁衣装に触れるすれすれの辺りに陣取った。

 これがまた、出来上がってみると見事だった。

 形は単純なだけに余計に刺繍の効果が出ている。

 深紅の地に、淡い色の糸で細かく細かく×が縫い込まれ形を作り、遠目には花を全身に飾っているかの様だった。

 深紅のおおもとのドレスはリューミンが前年から作っていた。

 その上の図案は「木の花」と皆に頼んだのだという。

 この地方の式は伯もしくはその代理人が見届け人となる。

 襟や袖口、裾にかっちりした模様の刺繍の入った礼服を着た相手の彼は、目の前の伯の前でも笑顔で宣誓をしていた。

 式そのものは単純。

 そしてその後はお祭り騒ぎだ。

 誰の結婚式であってもある程度は騒ぐ。

 だが今回は伯の令嬢のそれだ。

 皆で無礼講とばかりに広間一杯にテーブルを出し、大皿に料理を盛り、あちこちに酒を振る舞う場所が作られた。

 私達は林檎のジュースとサイダーをたっぷり飲んだ。

 そして貯蔵している鹿肉で作ったロースト、野菜の煮込み、沢山の焼き菓子といったものが次から次へとやってくる。

 私達は花嫁花婿と共にまあ飲んで食べて。

 ――やがて二人は会場からそっと姿を消していた。

 それに気付いたセレは肩を竦め。


「ああもう、先に大人の世界の仲間入りしてしまったな」

「そうね」


 そう言って私達は林檎のサイダーで乾杯した。


「それにしてもこれ、美味いな」

「帝都で飲むものよりずっと美味しいわよね」


 すると「お母様」の一人が説明してくれた。


「林檎は寒さに強いのでこちらでもよく作っているのですよ。出荷に適さないものをジュースやサイダーにするんですが、帝都まではなかなか運べないものですね」

「絶対に評判になる美味しさです!」

「お土産にしたいくらい」

「密閉技術がもっと進んだら帝都へも出荷できるでしょうね」


 そして暖かい建物の中で食べるアイスクリーム。

 これもまた、こくのある乳製品をたっぷり使っているのがわかる。

 南東の辺境に行った時にはねっとりと味の濃い果物に舌鼓を打った私達だが、こちらではこちらの特産品をたっぷり使ったものが美味しい。


「林檎はお帰りになる時に、箱で寮に届けさせますわ。リューミンも式はしても、卒業まではそっちですしね」

「そう、だからその前、みっちりいちゃついてもらうのですよ」


 「お母様」方はふふふ、と含み笑いをした。


「来年か再来年にはまた騒がしくなるかしら」

「それもまた良いわね。皆きっと良く世話してくれるし」


 嗚呼もうその予定なんですね「お母様」方……

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