70 最終学年の秋冬
最終学年は卒業試験以外は様々なことが大目に見られた。
そのおかげで冬期休暇の少し前から、北西辺境領へと向かうことができた。
目的は冬支度への参加と、箱住まいの体験だ。
もっとも秋は短い。
帝都の感覚でいると、あっという間に季節が変わっている。
したがって、私達が共に向かった時には既に雪が積もっている場所もあった。
既に人々は箱の家の方に集まり、それぞれの家族ごとに小さな部屋で寝泊まりすることになっていた。
箱全体の玄関室で靴を脱ぎ、服の雪を払い、自分の部屋まで持って行く。
裸足で歩くその床の上は地面より多少高く、そして暖かかった。
リューミンはあっさりと説明した。
「ボイラー室で火を炊いて暖められた空気が全体と床に回っているの」
「どんな技術なのか、後で聞いてもいいか?」
セレはわくわくして聞いていた。
「いいけど、まず部屋に落ち着いてね」
私達は他の人々と同じ様な一部屋を借りることになっていた。
そこはどちらかというと狭い。
寝て起きるための場所、と言った方が正しそうだった。
一日の殆どはあちこちに設けられた広間なり、図書室なり作業室なりで過ごすことになった。
結婚式は新年に変わる夜に行われることになっていた。
私とセレは「お母様」達に言われるままに、今日は飾り物の下ごしらえ、今日は保存材料の準備、今日は皆と共に昼食や夕食の準備、と毎日違った仕事をもらった。
体験は大事だ。
そして時には積もった雪の上をリューミンとその婚約者と共に散歩に出た。
「二人で居なくていいの」
そう聞くと。
「そんな時間は今後いつまでもあるんだから、今は二人に幾らでも見せたいものがあるの」
そう言っては、遅い朝の夜明けだの、樹氷だのを見せてくれた。
時には「お母様」や子供達と共に、分厚く張った湖の上をを滑る遊びや、小さなそりで斜面を滑り降りることなどにも参加した。
そしてその都度、彼女達が着せてくれた服の保温性に驚いた。
厚着は厚着だ。
帽子どころかすっぽり背中から頭までくるんでしまう毛皮つきのフードのついた長い外套。
袖は長めでやはり毛皮がついて。
腰まですっぽり包む下履き。
厚手の長靴。
作業をする訳ではない外出時には、箱の中の暖気をそのまま詰め込んだ様な服は大切だ。
木材を切り出す作業の人々は、それ相応の格好と、途中の休憩、火の用意が必須。
厳しい寒さだが、その一方で食料の保存には適している。
「君等が来る前に狩った鹿の肉も、外の小屋に置いておくだけで充分冬中保管できる」
野菜にしても同様らしい。
「保存が効くってのはいいな。こういうのがキリューテリャの住んでいる方にもあったなら、伝染病も減るだろうに」
そうセレが言ったので。
「技術ではどうにもならないの?」
「温めるより冷やす方が何かと動力は必要らしい。その辺りの理屈はまだ私には分からないのだが……」
「それに夏のアイスクリームを作るのにも」
「氷を使った冷蔵庫というものは昔からあるが、氷自体を何処かから運んでくる必要がある。氷を作る場所というものが都会の近辺にあると便利なんだが……」
冬は冬で、また様々な考えを起こさせてくれる場所だ。
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