69 乳姉妹の予言
父との賭けの取り決めが出来たことで、私は安心してしばらくフィリアやポーレとの休暇を楽しんだ。
「明日二人は戻ってくるらしいぞ」
「そうですか」
そんな話を朝食の後で父が告げたので、戻ってくる前にさっさと退散することにした。
帰り(という感覚しかない!)の列車内で、今回の賭けの話をポーレにすると。
「テンダー様が出る時には私も一緒ですからねっ!」
と真剣なまなざしでぎゅっと手を握られた。
「そりゃ当然よ。でも私も叔母様のところであってもリューミンのところであっても、お嬢様ではなくなるんだから、その時には共に働くただの乳姉妹よ」
「いーえ、テンダー様はきっとその後私を身近な小間使いにしたくなりますって」
後にこれは予言だったのか、ということを思うのだが。
*
寮に戻ってしばらくすると、自治組織の引き継ぎがあった。
そして進級。
後はもう、最後の学年で思い切り学び、楽しみ、そして秋から冬にかけては辺境伯領へ行くのだ。
第四の方の噂は時々風に乗って聞こえてきた。
その後「問題のある生徒」は二割から一割に減ったとか。
……そして相変わらずその一割にアンジーが入っているとか。
「何でそうなるの貴女の妹!」
手が空くと何かしら小物に刺繍をしているリューミンは、回ってくる情報に手を止めては呆れていた。
「子供の頃の教育って怖いわね」
「何それ」
「元凶は誰か、という話。リューミンは絶対に子供は真っ当に育ててね」
「そ、そりゃそうよ。沢山作って皆それなりに!」
「で、何今作ってるの?」
彼女が刺繍しているものを私は示した。
ある程度の大きさのしっかりした布の端に、細かい鎖模様がうねっていた。
「鍋敷き」
「あー…… じゃなくて何で鍋敷きなの?」
「結婚する時には、男は家具や食器、女は食事の時の敷物とかを作って持ち寄る習慣があるのよ」
「へえ……」
「夏からずっとやってはいたんだけど、刺繍にようやく取りかかれたというか」
言うだけあって、彼女が開いたその材料の入った箱は結構な大きさだった。
「けど食器も作るんだ、そっちは」
「全部じゃないわよ無論。上手い下手もあるし。私のこれだってそう。形を作るまではいいのよねえ。問題は模様」
「そう言えば、そっちに行った時、結構夏の服には刺繍していたものね。袖口とか」
「そう。夏のはね、もともとは布地の補強から始まってるらしいの」
へえ、と私は感心した。
「そう言えばテンダー、貴女の婚約者とやらにはもう会ったの? 帝都に居るんじゃないの?」
「父があれ以来特に言って来ないから、向こうも忙しいんでしょう、たぶん」
「ふうん。それで貴女、結婚する気あるの?」
私は黙って笑った。
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